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中編
知っているのに知らない顔。
 

 ───放課後はいつも理科準備室に行ってるクセで、文化祭一週間前の今日から放課後も体育館で練習するのを分かってても勝手に足が動いて、羽田に笑われた。
 とりあえず殴った。


 一週間前練習は、全体の動きを揃えるために本番と同じように踊る。
 衣装はイメージを固める為に似たような雰囲気の服が指定されたけど持ってない人も居るから、そこはそういう服を沢山持ってるヤツに借りたり、サイズが合わなかったら自前のものを加工したりして曲に合った服を着る。

 練習中はジャージだから、ジャージに慣れて衣装じゃ踊りにくくなるからと三日前は衣装で全体練習。


 楽しい。
 文化祭の雰囲気が、クラスの雰囲気が、学校の雰囲気が。



 でもやっぱり俺は、物足りなかった。
 宇佐見とのんびり過ごすあの時間が俺は好きだから、宇佐見に会いたい気持ちを抑えるのに必死で、とにかく動いた。



「カメー、羽田ー、悪いけど高坂センセー呼んできてくんねえ?」



 練習の合間、休憩しようと体育館に座り込んで息を整えてたら同じく息を弾ませた委員長に呼ばれた。


 高坂は俺の居るクラスの担任で、昔ダンスの大会に出ていたという、ちょっと軽そうな若い男の先生。ちなみに担当は体育ではなく日本史だ。なんでだ。



 とりあえず聞けば、委員長も参加するダンスだが全体練習を見るのに自分が外れていたら合うものも合わないと、高坂に見てもらうためらしい。
 なぜ高坂が居ないのかと言えば、まあ、仕事を理由に真面目と見せかけた単なる面倒臭がりで、どうせ資料室でふんぞり返ってるんだろうから呼べと。
 なぜ俺と羽田か。
 ただ出入口近くに居たからだ。



「めんどくさ」
「じゃ、ついでに高坂に飲みもん貰おーよ」



 えー、と唸る羽田に苦笑いしつつ、喉が渇いたから飲み物を集ろうと言えば溜め息を吐いたものの羽田は立ち上がってくれた。


 体を伸ばしながら羽田と共に体育館から出ると、外の風が当たって火照る体が冷まされてく心地よさを感じる。
 校内や校庭では文化祭の出し物の準備に駆け回ったり声を掛け合う生徒が入り雑じっていて、何だかわくわくした。


 校舎内に入り資料室がある二階に上がり、廊下をダラダラと歩く。
 通り過ぎ様に教室の中を覗いていたら、羽田がぽつりと、何でもないように言った。



「あ、宇佐見じゃん」
「え!」



 その時の俺の反応は羽田が驚くくらい早かったみたいだけど、俺の意識は宇佐見に一直線だから気付かなかった。
 宇佐見がいる。
 普段準備室でしか会わない宇佐見が、廊下にいる。声を掛けたら、どんな反応が返ってくるんだろう。いつも通りだろうか。それともまた少し笑ってくれるだろうか。


 運動していた興奮もあって、俺はわくわくとドキドキを綯い交ぜにしながら、羽田の視線の先を見た。




「……」




 でも、声は掛けられなかった。
 一瞬にして浮かれ上がっていた気持ちががくんと下がるのを自覚するほど、緩んでいた目も口元も、きゅっと引き締まる感じがした。



 笑ってた。
 一緒に居ても滅多に笑わない宇佐見は、あの、俺を天にも昇る気持ちにさせた微笑で、知らないヤツと向かい合って、何かを見ながら。
 二人とも同じものを見て同じ感情になって同じように、笑ってたんだ。






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