中編
特にその声で呼ばれたくない。‐01
───気づけば夏休みもあっという間に終わり、暑さが引いてきた10月。例年よりも肌寒い日があったり急に暑かったりと、忙しい天候に学校やバイト先でも体調不良が目立っている。
目覚ましの音に目を開くと間近にカメの寝顔があって、次いで肌寒さを感じ布団が奪われていたのでとりあえず奪い返したら寝惚けた声で「寒い」とか言って寄って来たからつい蹴落とした。
そういや昨日土曜日だから居たんだった。
昨夜は雨もあってか急に涼しくなって、羽毛布団はいらないが長袖を着て薄手の毛布は欲しいくらいだ。
「いった〜…」
「狭いわボケ」
「だって下寒かったんだもん」
「だからって布団奪うなっつの」
「ごめーん…」
言いながらも再び布団にくるまり寝始めた幼馴染みに溜め息ひとつ、髪をかき混ぜながらベッドを降りた。
こいつには危機感というもんがないのか。……俺相手にあるわけないか。
そうやって無防備で居られる相手である事が嬉しいと思う半面で、衝動的になってしまいそうになる欲が見える。
まあ、ぶっちゃけコイツの割り込みは昔からだし慣れたっちゃあ慣れたけど。
「……」
アホらし。
体を伸ばしながら欠伸が出て、人の布団で気持ち良さそうに寝ている幼馴染みを少し眺めてから洗面所に向かった。
親はまだ寝ているのかリビングは静かで、軽く腹拵えをして着替えてさっさとバイト先まで自転車を転がした。
ゲームしたい。鬱憤を吐き出したい。
あれこれ言うつもりはないけれど、ただゲームしてリョウさんや他の人達と話すだけでも充分だ。
明日は学校があるけど少しだけ長めにやろうか。夜の方が人も多いし。
バイトから帰ってきたらやっぱりカメは家に居て、一緒に夕飯を食って暫く寛いでから帰った(たぶん遊びに行った)ので、風呂に入ってから何時もより早めにログインしたらリョウさんは既にログインしていた。
『───…そういえば、土曜日何時からにする?』
「え、…あ、俺は何時からでも良いっすよ。起きようと思えば朝から起きてるんで」
建物の屋上でアイテム選別をしていたらリョウさんに言われて以前交わした話を思い出す。
会おうという話は夏休み前だったけど、それからちょいちょい話題に上がってはいたのに、いざ細かい予定を決めるとなると途端に現実味が増す。もうそんな経ってたんだな。
『じゃあー…お昼ご飯一緒に食べたいし、少し早めにしよっか。10時くらい?早い?』
「いや全然。場所はどこに行けば良いですかね」
『最寄りどこ?』
「L駅です」
『…え、マジで?一緒じゃん』
「えっ、」
『ご近所さんだったりして』
「うわ、なんか急に緊張してきた」
『ふっははは、キャラも挙動不審になってる』
まさかリョウさんと最寄り駅が一緒だったとは。都内とは言っていたし、近くの店とか商業施設とかの話もしてたけど。
何だか急に距離が近付いた気がしてバイトの面接より緊張した。
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