中編
06
俺はその立場を壊したくなくて、自覚したと同時に感情を奥底へ押し込んだ。
だってカメは異性愛者だから。夜遊びだって女性、他の奴等と交わす恋愛話の対象も当たり前に女性だ。
その当たり前があるからこそ、俺はこの気持ちを伝えないと決めた。親友のままでいい。
いつかカメが本命を見つけて恋をするなら、相談だって応援だって何の躊躇いもなく出来る。
今のままで良いかは分からない。良くないのかもしれない。そのうち別の恋でもすれば、カメに対して本来の気持ちで大切に思えるのだろう。
リョウさんはそんな俺の恋心を知っているただ一人の知り合いだ。
両親は俺がゲイである事を知ってはいても好きな人については知らないし、親は特にカメと仲が良いから壊したくない。
『───逃げてるとか、そんなことないって。大切なんだね』
「はい。 まあ、これで良いかなって…異性愛者が同姓を好きになるなんて奇跡だと思いますよ」
『そうかなあ…、あ、エリア変えよ』
「はーい」
画面いっぱいの草原から再びコンクリートジャングルへと向かい、リョウさんの使うキャラの背中について行く。
途中で出会う敵を綺麗に倒す様はさすがの上級者と言える動きで、武器も装備も一級品だし平然と助けてくれたりレアアイテム送ってくれるし、尊敬するレベルである。
『───そういやさ、ハイネくんはオフ会興味ある?』
「…そういえばイベントでなんかありましたね」
銃声が轟く中での話題に、最近見掛けたオフ会イベントの告知を思い出す。
『パーティ面子は気晴らしに行くって言ってるんだけどさ』
「あー…、でも俺高校生だし、」
『ああ、飲み会みたいなもんだしなあ』
「リョウさんは行かないんですか?」
『あんま興味ないかも。 そこにボックスあるよ』
「本当だ」
建物の脇にあるボックスが視界に入り、一応周りを見てからそこへ向かった。
『あ、でもハイネくんには会いたい』
「えっ、あっやべっ」
『あんまり? こっちおいで』
リョウさんの然り気無い言葉に一瞬混乱して、近くで飛び出してきた敵を見つけても反応が遅れ、攻撃が向けられて慌ててしまったがリョウさんの反撃で蜂の巣にならずに済んだ。
てか何だ今の。「おいで」ってなにそれもう一回聞きたい。
……いやいや俺は変態か。
『大丈夫?』
「ありがとうございます。 一発食らっただけでした…あっぶねー、」
『良かった。上行くか』
「…結構居ますね」
『こっちはまだ誰も来てなかったのかも。タイミング悪かったなー』
「そうですね…、ここ隠れられそう」
『狙うか』
リョウさんが案内してくれた建物の屋上は射撃に最適な物の配置で、出入り口を塞げば背後を気にする必要無く狙えるボジションだった。
建物の周囲には結構な数のプレイヤーが居て、各々で銃撃戦を繰り広げているものの、そいつらをヘッドショット一発で仕留めていくリョウさんは(実際やってるのがキャラでも)格好良すぎた。
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