中編
05
『新しいクラスは慣れた?』
「クラス替え無いんで、進級した実感ないです」
『そうなんだ。じゃあ片想いの子とも一緒かー』
「アレはクラス別になった時でも休み時間になると来てましたから」
『仲良しだね。 やっぱり言わない?』
「…はい、一生ないですね」
『でも好きなんでしょ』
「まあ、今はそうですけど。出会いさえすれば他の人好きになるだろうし、関係壊したくないから」
『達観してんねえ』
「いやーはは、逃げてるだけっすよ」
アイテムを整理しながら力なく笑う。
こんな荒れたゲームの中でも色恋話は結構有りがちだけれど、この話は失恋前提だ。
ネットで私情の暴露なんて危険なのに、なぜその話をしているのかと言うと、リョウさんの旧友について似た話を聞いたからだった。
恋の話なんてどこも可笑しくないだろうが、ただその相手が同性である事が「一般的」ではない。
リョウさんの友人は恋心を自覚する前に中学を卒業して離れてしまった為に上手くはいかなかったが、卒業する前も今もその人を好きだと思う、と言っていた。
同姓を好きになる事について偏見のない人だったからか、ただ親しみの好意的な思いがあったからなのかは分からないけれど、誰にも言えなかった自分の中身をつい話してしまったのだ。
結果的にリョウさんは何も変わらなかった。ただ単純な恋愛話としてすんなり受け入れてくれて、今では気楽に相談やら胸のうちを吐き出せる唯一の存在になっている。
実際彼がどう思っているかは分からないし、知らない所で笑い話のネタにされているのではないかという危惧もあったけれど、リョウさんは常に真剣だった。
顔の見えない声だけの相手だとしても、何故か不思議と信頼できた。
───物心や自我が芽生え恋という感情を知るようになると、俺は自分の恋愛対象が異性ではなく同性に向く事に気が付いた。
疑問を抱きその件を早々に両親へ打ち明けると、驚きはしたが嫌悪はされなかった。寧ろ「難しい事だけど、好い人が見つかると嬉しい」なんて言って受け入れてくれたほど、その両親の寛容さに今でも救われている。
世間一般では異端分子などと弾かれるものである事を知っていても、それは自分だけではないのだから必ず巡り会えるのだと、両親は幼い俺に教えてくれた。
戸惑い悩む時期は早々に無くなり、自分の性癖を受け入れて隠すのも容易く出来たのは両親のお陰である。
恋をしたのは中学の始めだった。昔から取っ付きづらいと思われていた俺に、出会ってから分け隔てなく接しては一緒に居ることが増えた幼馴染みの亀山春彦を好きになってしまうのは仕方ない事なのかもしれない。
中学の終わりから高校の今でこそ誰とでも話はするが、カメほど親しくはない。友達としては居るが、親友というほどではなかった。
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