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中編
02
 


「───ありがとうございましたー」


 安売りしている2リットルペットボトルのお茶をバラで3ケース分レジに持ってきた曲者なお客さんを見送り、ガラス窓の向こう側でそれをカートから自転車の前後の籠に入れている事に気付いてしまい、単純に心配した。
 三十代後半か四十代くらいの主婦だったけれど、あれを自転車で運ぼうという意思は流石女は強いというのか母は強いというのか。

 次いでレジにカゴが置かれて意識を戻し、お客さんを見ると常連の若い男性だった。
 マスクや洗剤、菓子類を通しているとタバコの番号を言われて覚えてしまった緑の箱を探すことなく一目で見つけ、希望の個数を打ち込んだ。


 高校入学と同時にドラッグストアで働き始めてから、週四で入るシフトの中でこの常連さんは大体同じ時間に来店して毎回俺がレジを担当している。
 タイミングというのか、毎回同じなせいで最初は勝手に気まずくなっていたのに、最近じゃ他のお客さんと同じ感覚に戻っていた。
 たまたまシフトに被るのか毎日来ているのかは分からなかったが、たまに休みだった日に急遽出勤しても来店するからたぶん毎日来ている。家が近いのか往来の場所にあるのか、単純にこのドラッグストアがお気に入りなのかは知らない。

 見た目は今時の大学生みたいで、茶髪を弄ってシャツ系やパーカーを良く着ている。タバコはクールキング、お菓子はポテチよりチョコレートが多い。たまに雑貨も買っていく。
 ストーカーみたいで気持ち悪いが、こうも毎回顔を合わせてレジに当たると嫌でも覚えてしまう。
 ただ、覚えた理由のひとつに「声」の良さはあげられる。煙草の番号とか単発的な声しか聞いたことはないが、あともう少し低めだったならもっと良いとか思っている自分がキモイ。
 まあでも、そんな良く会うお客さんでも接客以外の会話は一度もない。


 あの季節になるまでは。





 ───寒さが遠退き高校も無事に進級して2年に上がった四月。


「───…あ゙ー…」
「大丈夫、ティシューある?」
「使いきった」
「マジか。はいあげる」
「さんきゅ」


 鼻がゆるい。つまる。目が痒い。喉も痛い。しかし風邪ではない。花粉症だ。

 外見に似合わず毎日ちゃんとティシューとハンカチを持ち歩く幼馴染みから小さい袋を受け取り、マスクをずらした。

 毎年この時期は特にしんどい。年がら年中花粉は舞うが、春は本当に好きになれない。
 薬はあるが飲むと眠くなるやつしか残っておらず、箱で持ってきていたティシューはもう無い。明日から二箱にしようと決めながら鼻をかんだ。


 授業中も先生からのお恵みを頂戴して何とか乗り切り、放課になるとカメは「バイトがんば!」と手を上げた後で足早にどっか行った。
 同年代との遊びはきっかり辞めたようだが、最近は校内に残っている日が格段に増えた気がする。

 まあいいか、と新しいマスクを取り出して耳に引っ掻けた。



 


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