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中編
棚からぼたもち【夜勤+Refract.】
 


 翔君がどっかに消えてしまった。

 普段から目を離したらふらっと何処かへ行ってしまいそうではあったけど実際今までそんな事もなかったし、まさかショッピングモールでデートしていてモール内に点在するソファに座っててゴミ捨ての為に離れたほんの僅かな時間で消えるとは誰が予想するだろうか。
 その場でナンパされたりは良く目にしてはいた。相変わらず他人には愛想のiの字も無いのだが、それが良い雰囲気を醸し出しているのか本当に声を掛けられる回数が多い。
 それだけイケメンなんだけど、彼氏としてはちょっと止めてほしい。ちょっとじゃなくてかなり止めてほしい。それを翔君本人に溢したら微笑み付きで「嬉しい」とか言うんだから年上のクセに本当かわいい独占欲万歳。

 ああいや、そうじゃない。今はそれを思い出している場合じゃないんだ。
 店にでも入ったのかと目の前の店舗を覗いてみても、その左右にも翔君の姿は見えない。モールの隅のソファに居たから翔君が個人的に移動したならあの短時間で遠くまでは行かないはずだ。必ず視界に入る所に居てくれる。
 だがしかし、どれだけ周りを見渡しても翔君の姿はない。


「───……まさか、誘拐…!?」
「…どっちかと言えば拉致だった」
「あー、まあそうか、翔君が誘われて拐かされるなんて無いよね!………って翔君!」
「ただいま、由貴」


 うんうん悩んで衝撃的な不安を口に出してしまった言葉の返しが聞き覚えのある声で振り返ったら、無表情の翔君が間近に居て体が仰け反った。
 咄嗟に全身を確かめたが変わった所も無くて、安心感に一瞬ショッピングモールであることを忘れて抱き締めると背中をぽんぽんされた。


「どこいってたの心配したよマジで!」
「うん、ごめん」


 体を離して何があったのか聞いてみると、どうやら知らない女性二人組に道案内を頼まれて無理矢理連れて行かれたのだとか。案内掲示板見ろや。


「…で、この人達が助けてくれた」
「へ?」


 この人達、と言いながら振り返った翔君に倣って顔を翔君の背後に向けたら、そこで初めてこっちを困惑気味に眺めている二人の青年?が居る事に気が付いた。
 翔君の心配で頭が一杯だったせいだ。

 慌てて翔君を反転させて頭を下げて礼を言ったら、大丈夫、と気さくな返事が来てホッと胸を撫で下ろす。

 見れば彼らはどちらもタイプの違う長身イケメンで、翔君と似た無表情ながら雰囲気は違う大人しそうな人と、ヤンキーなのか不良っぽいような雰囲気の強面な人だった。
 でも大事な恋人を助けてくれたのだから確実にいい人だと安心したら、強面さんがあっさりぶっ込んできた。


「……あんたのカレシ挙動が大袈裟な」
「愛されてますね」
「えっ」


 カレシ!? 翔君見ながらカレシって言った!?
 同性愛は気持ち悪いとか言いそうなタイプの人からの衝撃的な台詞に目を見開いて翔君の方に顔を向けたら、翔君は相変わらずな表情で「言っちゃった」なんてこちらを見上げていた。
 そんな言い方もかわいいけれども。


「な、何とも思わないんですか」
「あー…まあ、」
「同じだから。 あと俺達の方が年下なので畏まらなくて大丈夫です」


 強面さんは口籠もったが、次は隣の大人しそうな人がぶっ込んできて目が点になった。












「───いやほんと、ありがとね、うちの翔君無駄にモテるもんで」
「あー、こいつもそうだから」
「お前もな」
「……」


 拉致された翔君を助けてくれた二人にお詫びと称してフードコートでご飯を、と誘ったら快く受けてくれたので、四人席で各々の前には色々置いてある。
 ちょうどお昼時でまだご飯を食べていなかったらしいので、ナイスタイミングである。

 強面さんは槙野新くんで、大人しそうな人は小野宮朔くんと紹介してくれた。高校三年と聞いてびっくらこいた。年下って言ってたけど未成年だったとは。
 そんな高三に助けられた翔君は黙々とパンケーキを食っております。


「まさか身近にカップルが居るなんて思わなかったよ。なんか安心する」
「うちの高校は男子校で全寮制なので結構居ますよ」
「えっ、そうなの?その高校ってかなり有名だよね、裕福な家庭の子が多いって聞いてたから驚き」
「勉強出来ても馬鹿はいるからな」
「……、ねえ今ちょっと闇が見えたんだけど」
「そういうものです」
「……そういうものですか」


 割りと表情豊かな新くんだけど、表情が豊かそうな外見をしている朔くんは殆ど無表情で声が淡々としている。
 たまに微笑みがあるけれど、やっぱどこか翔君と似てる。あっさり衝撃的な発言ぶっ込んでくるとことか。

 親近感が沸くのは似たような組み合わせだからだろうか。


「全寮制の外出って面倒臭くないの?」
「紙一枚隔てる程度なので」
「他の奴等に知られなきゃ面倒臭くねぇし、寧ろ外の方が良い」
「どゆこと?」
「付いてくるのが鬱陶しい」


 なんだそりゃ、と首をかしげたら、新くんがため息混じりに愚痴を溢した。
 どうやら二人のいる高校ではファンクラブだかがあるようで、それにも驚きだけど、盲目的な信者に知られるとストーカー紛いの行為を平然と実行するらしい。いやそれヤバイやつじゃん。


「ほえー…、別世界」
「ずっと居ると感覚麻痺するけどな」
「じゃあ今日は息抜きなんだ?」
「物件の下見の帰りです」
「え、二人で?」
「卒業したら一緒に住む予定だから、早めにな」
「うわぁ、良いなー、そういうの好き」


 俺が高三の時なんて恋人とかより遊びだったからアレだけど、そんな風にしっかり考えてなかった。
 二人の考え方とか性格とかそういうのが気持ち良くて、素直に言葉を吐き出したら隣からも衝撃的な発言がきた。


「…俺と一緒に住む?」
「住みましょう」
「ふ…っ、答えんのはっや」
「だーってさー、翔君に言われたら断らないわけないじゃーん。ご近所さんになってもならなくてもよろしくね?」


 棚ぼただよ幸運の女神。いや神。なにこの流れ、幸せでしかない。
 笑みが引っ込まない俺の間延びした言葉に、無表情だった朔くんが綺麗な微笑みを見せた。


「ふふ、これも何かの縁ですね」
「…由貴、友達増えた」
「わーい!一緒に遊ぼー」
「くはっ、マジかよ、なんだこれおもしれー」



 本当に友達になってくれました。
 連絡先交換しました。
 翔君は棚からぼたもちを持ってきてくれました。今日は大安です。



END


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