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中編
ウサギの攻撃力。
 

 文化祭が一週間前に迫るこの頃、各学年クラスはその準備に、ついこの間終わったテストのせいかやけに生き生きと行動してる。

 通っている高校は珍しくも毎年文化祭が12月中旬の冬休み前に行われる。期末テストを終えた息抜き、という生徒思いの行事予定だ。


 俺自身例外じゃなくて、テストからの解放感でいつもより気分がいい。
 それにクラスでやるのはダンスときた。
 動くのは結構好きだし、楽しいし、ノリの良いクラスメイト達の反対もなくてあっさり決まった。


 曲決め、衣装、ただ踊るだけじゃなくて見てる人も楽しくなるようなものにしようと、決まった翌日から一丸となってしかもノリノリで話し合った。

 内気な人も運動音痴な人ももちろん居るけど、そこは他の奴等でフォローすることにして、とにかく折角なら恥ずかしがらずに何も気にせず楽しんじゃえばいいんだって、もうクラス委員長が意気込んで説得。


 何度も何度も練習練習、どうしても息が合わない人たちはオリジナルで別の動きを取り入れたりして、本当に楽しい。
 一日の授業の最後の二時間は文化祭準備に当てられて、うちのクラスは体育館を貸切状態。
 劇をやるクラスもあるけど視聴覚室があるからって快く譲ってくれた。ホント良いクラス。


 一週間前にもなれば放課後も残ってやるっていう話で。
 だから、文化祭まであの理解準備室に行くことが出来なくなる。



「宇佐ちゃんのクラス、なにするの?」
「喫茶店」
「まじ?宇佐ちゃん表?」
「たぶん」
「え、うそ、いっていい?」
「断る理由ないし」
「やったー」



 どうやら、宇佐ちゃんも文化祭一週間前は準備があるから放課後はここに来ないらしい。
 さみしい。でも、仕方ない。

 それにしても喫茶店か。


 器用に動く指先を見つつ、たまにチラと伏せられた目の無表情も見る。



 ───宇佐見裕弥って、結構女子人気高いらしいな。



 いつだか羽田が言ってたことを思い出す。
 確かに、無表情ではあるけど宇佐見は男前と言える顔つきだ。
 はっきりとしたパーツに、奥二重の瞼は切れ長で、鼻筋も綺麗。骨格だって、ゴツ過ぎないけど男らしいものだ。
 手もまた綺麗なんだよ。指が長くて骨張ってるけど、そこがまた結構好き。
 夏場の半袖の時に見た腕は、細めなんだけどしっかり筋肉がついてたし、少し血管が浮き出てる所もまた───って、なんか俺変態っぽい。



 なに考えてんだ、と顔に熱が集まってきて、机に肘をついたまま両手で顔面を覆った。


 やだやだ、こんなの知られたら、いくら無関心そうな宇佐見でも引くって俺のバカ。



「……どうかしたのか」
「っ、ぅへ?」



 ああああもう、変な声出た!!
 宇佐見から話しかけてくれるなんて、しかもさりげない心配とかもうなんなのお前っ、もうやだ好きだわ俺マジだわヤバい俺、ホントに男も恋愛対象とかいけるのか…。



「ここで宇佐ちゃんと会えないとか思うと寂しくてさ〜」



 とりあえず俺は、乱れ狂う心中と両手で顔を隠した(たぶん顔が赤くなってる)事を誤魔化すように、冗談みたいな雰囲気で泣き真似してみた。
 しくしく。
 ふざけてたらホントに寂しい気持ちになった俺、結構重症かもしれない。


 しかし、ただ「ふうん」とかそういう返事を予想していた俺は、宇佐見の言葉に息が止まった。



「終わればまた会えるだろ」



 衝撃。攻撃力半端ねぇ。
 息が、止まったんです。ホントに。



 

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