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中編
その優しさにただ甘える。
 

 朝晩がすっかり冷え込んできた、11月下旬。
 放課後にもなればもう外は夜のように暗くて、校庭は部活中ライトが点く。
 そんな、季節が変わっても相変わらず俺は空調設備のない理科準備室で、セーターで指先を隠しながら向かい側の指先をただぼんやりと見つめていた。





 ここで宇佐見と出会って、授業のある登校日の放課後ほぼ毎回こうして向かい合って座り、手元の作業を見つめて時々(ほぼ一方的だけど)話をして、最終下校時間にそれが終わって正門まで一緒に歩き、そこでバイバイ。
 会話はほとんどといって良いほどない。
 だけどそれが心地よかった。


 また明日、も寄り道の誘いの声も掛けず、ただ「じゃ」とお互い言って背を向ける。
 友達と言い切れない関係だけど、ただの同級生とも言えない。
 クラスは隣。家は逆方向。連絡先も知らない。


 名前、声、外見、趣味。性格は…微妙な所だけれど、出会って関わって今に至るまでに得た宇佐見の情報はそれくらいだ。
 逆に宇佐見にとって俺の情報は、得たと言えるのかは分からないけれど同じような個人情報を知ってるんだろう。

 一方的に話をしているのもあるけど、それを相手が覚えているかどうかなんて。
 覚えている、と考えたら凄く嬉しいな。






 そんな事をつらつら考えるようになってきたこの頃。
 宇佐見の事をあまり知らないのに、宇佐見も俺を知ろうとはしないから、知りたいと身を乗り出す事も出来ない。


 淡泊。
 宇佐見を一言で表すなら、まさにそれ。
 慌てたり怒ったり寂しそうにしたり悲しそうにしたり楽しそうにしたり、なんて喜怒哀楽という感情をほとんど出さない。
 俺はこの場の宇佐見しか知らないから、普段どんな奴とどんな風に会話するのか分からないけれど。


 どうしてか俺は、この場以外で宇佐見と関わろうとかは思っていない。
 二人以外で誰も居ないこの空間でだけ宇佐見を独り占め、なんてそんなことは思わなくもないけど、ここ以外で関わり始めたらそれこそ物凄く嫉妬しそうだったから。


 知らない事は知らないままの方が良いときも、ある。
 そんな、現実逃避。



「寒いね」
「そうだな」
「手先固まらない?」
「べつに、そこまで寒くないから」



 宇佐見は俺がどんな文句を言おうと、帰れば?とか言わない。
 いつも抑揚なく冷たい印象な言葉使いなのに、突き放すとか拒絶とか、そういう言葉を言わない。
 優しいな、と思う。
 俺が一方的にこうして居座っても、理由も聞かない。ただ会話をする。
 どうでもいいほど興味の欠片もないだけなのかもしれないけど、それがとても安心したんだ。



 俺は寂しかったのかな。
 最近、街を彷徨く事が週末だけになってる。平日はこうして放課後を過ごして帰ってご飯食べて部屋にいる。
 友達付き合いも週末、学校がない日だけだ。



 でもそれが、俺にとっての日常と化していて。
 卒業までこのままかなぁ、なんて漠然と考えては、すぐ忘れた。
 宇佐見にとっても、向かい側に俺がいるこの空間と時間が日常になってくれていたらいいのに。



 

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