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中編
20
 



「なんか、放っておけないんだよね、そういうの。単純な人探しじゃないし」
「そう、ですけど。でも無理に時間作ってまではしなくて良いですから…」
「ん、分かった。とりあえずー…俺は久住晃、よろしく」
「寺田康之です」
「オレ本名分かんないけど康之さんがトオルって名前付けてくれたの!居るの2、3日だけどよろしくね、あっきー」
「よろしく。良い名前じゃん、よかったな」
「うん!」



 社交的な人間は親しくなるのが早いな、と少年のようなトオルと久住晃という青年を見て康之は親のような気分になった。

 青年と別れて二人は宿に戻り、部屋に入って一息つこうと康之は急須でお茶を入れた。



「いい人だったね、あっきー」
「そうだな。こういう所の人たちは親切が当たり前に出来るのかもな」



 友達でも出来たかのように嬉しそうなトオルは、康之の傍にぴったりくっついて笑っている。

 晃という青年は若いのにも関わらず通りすがりの客に対してあそこまで親切になれるのは、育ってきた環境故だろう。
 かなりフレンドリーだった。
 社交性はトオルと同じくらいだろうか。簡単に他人と打ち解ける事が出来る社交性が康之にはないので、年下と分かっていても砕けた言葉を使えずにいたが、トオルは最初から砕けていた。
 康之以外に見える喋れる人に会えたらトオルが喜ぶのは頷ける。


 明後日、彼は町の病院で事故の事を聞いてくれるらしいが、簡単に教えてくれるものだろうかと思ってしまう。
 それでも僅かな期待を抱きながら康之は布団に入り、トオルは康之に触れられても一緒には入れないため布団から出した康之の手をずっと握っていた。






*






 強い冷気で目を開けた康之は、寝起きの頭のまま隣を見て瞬時に覚醒した。普段感じていたものよりも氷に近い冷気はトオルだったが、康之が起きた事に気が付いていない様子で瞳の焦点が合っていない。



「トオル?」



 上半身を起こして声を掛けると、トオルは間を置いて弾かれたように顔を上げて目を瞬いた。
 それと同時で氷に近い冷気は無くなり普段通りの微かなものに戻っている。



「───っおはよ、康之さん!」
「……おはよう。 お前どうした?」



 康之を認識したトオルは晴れやかな笑顔で明るい声を上げたが、今し方の違和感に康之が尋ねるとトオルは一瞬疑問を浮かべたものの、すぐに思い出したように瞬きをした。



「なんか康之さんが寝てから、ちょくちょく意識が飛ぶんだよね…、さっきも飛んでたみたい」



 飛んでいる間の事は分からないらしく、トオルは不安そうに康之の足の上に移動してきた。
 怖い夢を見たあとの子供のような様子に、康之は頭の辺りに手を置く。

 トオルの話では、康之が眠って1時間ほどで意識が飛び、それから2、3時間置きに五分程度意識が無くなるらしい。
 時計は10時を指していて、布団に入ってから約一周している。その間に三回以上トオルは意識を飛ばし戻るを繰り返していたようだった。

 今までそんな話は聞いたことがないし、トオルも初めてだと言う。
 この町に来てからおかしな事が続いていて、家を出る前の不安を思い出した康之は冷気の塊を抱き締めた。



「康之さん?」
「……、出掛けよう」
「うん、…?」



 康之の行動を不思議がるトオルだが、抱えている不安を伝えないまま康之は布団を畳んで支度を始めた。


 ───トオルが消えてしまうかもしれない。
 理由は分からなかったが、あの時唐突に浮かんだ不安が再び康之の中で蜷局のように絡み付いていた。



 


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