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中編
◇それはきっと気持ちの再興である。
 

 初回の合同会議から六日。明日は二回目の合同会議があり、先日N社の佐久間さんから提案された会食と共に行うことになった。
 付き添いは変わらず佐東で、きっと相手側も須藤を付けるだろう。会議に付き添う社員をコロコロ変える事はまず有り得ない。
 それに、佐久間さんは須藤を気に入っているようだったしな。


 少しだけ、胸の奥が重たくなったような感覚を抱いた。



「……嫉妬、か」
「なにが」
「あ?」
「お前、俺が居ること忘れてんじゃねーよ」



 視線を上げた先には、不満そうな呆れたような顔をした佐東がいた。
 そこで今自分がいる場所と状況を思い出し、気まずさに苦笑すると溜め息が返ってくる。


 翌日に会議があるというのに、俺と佐東は居酒屋にいた。
 平日の午後9時とまだ早い時間ではあるが、小さいその居酒屋はほぼ満席で辺りは騒がしい。
 それを忘れてしまうほど深く考え込んでいた事を自覚し、なにをやってるんだかと自分で呆れてしまった。



「なに、須藤のこと?」
「まあ、」



 隠さず答えると、佐東は思案するように視線を他所へ流して唸る。
 俺もそうだったが、佐東は特に、というかまったくと言っていいほど中学時代に須藤との接点がない。
 たぶん、会話もしたことはないだろう。
 だから何でお前が考える事があるのかと突っ込みたくなったが、酒と共に飲み込んだ。



「なんかあいつ、いつもぼんやりしてるってくらいしか印象ねぇな」



 むしろ俺は、それでも印象があったことに驚いた。
 まあ俺が一言二言程度でも須藤のことを話してはいたから、姿を見てはいたのだろうが。



「で、お前片想い復活したのか?」
「ぶ…っ」



 汚い!としかめ面をする佐東。
 お前が変なこと言うからだろうが。

 口をつけただけで含んでいなかったお陰で酒自体を吹き出すことはなかったが、ちょっと溢れた。


 突然の言葉に返せずただ唸る。



 片想い。
 ……片想いだった、んだよな。


 如何せん、そういう意識で見ていたのに気付いたのが卒業式だったせいか、実感がない。
 無意識に姿を探して、何かを望んで、そんな自分に戸惑っていたのもあるが。


 言うのは軽いが、その片想いの相手は同じ男である。
 世間ではまだ抵抗を感じさせる同性愛。愛などという重い所まで来ているのかどうかも分からないが。



「そもそもはっきりしないまま卒業したんだ。そういう感情があったから変に意識してるだけだろ」



 自分で自分に言い聞かせているように思えたが、事実そうである可能性のが極めて高いはずだ。
 好きだった、好きだったかもしれない、そんな曖昧な感情で卒業して離れて、十年後に再会したのだ。
 思い出して意識をしてしまうのもあり得なくない。



「そうか?つーか、十年経ってんのにすぐ思い出して、なんか色々覚えてるってことはさ、そういう感情は確実にあったわけだろ」
「あったとしても、もう十年だ。片想いなんて案外覚えてるもんだろう」



 そうだけど、と何故か納得していない風な佐東に、なんでお前がそこまで悩んでいるんだと結局突っ込んでしまった。


 自分が好きだった相手を覚えている。
 それは何十年後でも、笑い話や思い出話として残されているものなのだ。
 だからこれは、その思い出話。




 それでも“彼”から意識を逸らせることが出来ていない理由に、その時点では気付かなかった。



 

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