[携帯モード] [URL送信]

中編
06
 

 貸し出しと食器、グラス、お菓子の籠、ご飯は温め中、定食の付け合わせキャベツやソースは盛った。
 後は電話を待つのみ。


 ちなみに設楽さんはいつも一気に電話注文だ。



 宿泊利用者に限って、平日にルームサービス一品が無料で注文出来る。
 来館した際のウェルカムサービスは人数分でお菓子詰め合わせやおまかせケーキ、飲み物だけだが、宿泊の無料サービスに至っては、お菓子、ケーキ、飲み物はもちろん通常メニュー表に載っている全てのメニューから一品だけ注文出来る。

 その無料サービスは、電話でしか受付していない。
 たまにいるお馬鹿さんがテレビメニューから注文しやがるから、問答無用で料金追加するけどな。で、帰る際の自動精算機での支払い時に後から電話で文句言われる。「一品無料じゃないの?」って。

 苛立ちと呆れの中で平謝りして無料にしてやるが、電話でしか受付しないって書いてあるじゃん!とか毎度ながら愚痴る。
 ちなみにイベントメニューは無料サービス対象外だ。



 翔君との久々に真っ二つに割れた賭け事。
 無料サービスはトンカツかエビフライ。
 貸し出しはアジエンスかダヴ。
 さあ、どっちか。



 入室してから十分、内線が鳴った。



「───はい、フロントです」



 電話機の目の前にいた俺が取り、キッチン前で待機する翔君に目を合わせてお互いニヤリ。



「…はい、エビフライですね」



 その時点で翔君が無表情ガッツポーズで、揚げ物用鍋を火にかけ冷凍庫へ。
 くそー。



「はい、はい、アジエンスとボディーソープがダヴですね、お菓子と、メロンソーダで。はい畏まりましたー。ありがとうございまーす」



 カチャ、と静かに受話器を置いた。
 翔君はエビを揚げている。



「全勝ー」
「あぁあぁぁくっそー!」



 ほとんど棒読みだけど、ピースしてきた翔君に悔しい気持ちになりながらも何故か笑顔になる。
 つーか全部違ぇじゃんマジでか設楽さん!


 仕方なく貸し出しシャンプー類をダヴからアジエンスに換えて、エビフライが揚がるのを待ちながら、定食についている味噌汁を用意。
 まあ、インスタントの小袋なんだけど。

 エビフライに付けるタルタルソースを皿の端に絞る。
 ちなみにエビフライ定食には唐揚げも二個ついてきまーす。



「いつも思うけどさー」
「うん」
「設楽さん時って持ってくのめっちゃ早いよな」
「……あぁ、うん」



 常連の常連だからか、注文が決まっているからか、下準備ばっちりだしね。
 何となくいつも、早いよなぁ、と思う。



「エビあがりー」
「ういー」



 そんでもって俺と翔君の動きに無駄がない辺り、また然りなんだろうな。
 やるべき事、役割分担がわかっているというか、喋らなくても自然と動く。三年目ともなれば、もうほとんどの行動がそんな感じで、あれこれ決めるも話し合いもない。


 必要なときは一言二言で理解してくれるし、理解する、なんて居心地が良いんだと改めて思うよ。



「カゴ持つ」
「暇だもんな」



 出来上がった定食と飲み物が乗ったトレーを持ったら、シャンプー類の入ったカゴとお菓子を翔君が持つ。
 やることない時に物が多いと二人で行くのもよくあること。
 設楽さんの注文したもんは一人で持っていけるけど、なかなか慣れないと危なかったりする。



「れっつごー」
「…ん」



 非常階段の向かいのエントランスに繋がる扉を翔君が開けてくれて、そのままエレベーターへ。
 客がほとんど居ない夜中は基本的に上がりはエレベーター。忙しい時やルームサービスを上の階まで持っていくのは時間がかかるし温かいやつは冷めるからで許可されているけど、基本的に従業員は階段しか使えない。
 鉢合わせする可能性もあるからなー。


 設楽さんが入室した部屋の前に立ち、扉にある内鍵とは別のオートロックを専用リモコンで開け、チャイムを鳴らす。

 従業員が常に持ち歩く専用リモコンは、客室電子ロックの開閉、チャイムを鳴らす、清掃入室や清掃完了のロック開閉が出来る4つのボタンがついている。
 フロントにある入室状況が映るパソコンと繋がっていて、例えばどこかの客室が清掃を終えて完了のロックボタンを押せば、パソコン上やタッチパネルで空室表記される。

 電子ロックは入室から五分で自動的にロックされる。料金未払いで帰らせないため。自動精算機で精算すればロックは解除される。
 その電子ロックはフロントのパソコンでも開閉出来る。
 ちなみに同じ階で入室したのを確認した時は、自動でロックする前にリモコンでロックしちゃうけどね。
 忘れ物したとかですぐ出ようとしても出れなくて電話来て結局開けるっていう手間もあるけど。




 設楽さんにルームサービスや貸し出し品を渡し、非常階段で翔君とのんびり事務所に戻る。



「なにするかなー」



 フロントに入り、メンバーズカードを通している客室のメンバー情報を見て、いつも何時ごろに帰るかを眺め、通していない客室はいつ帰るかなと予想しながら呟く。
 翔君はフロント入り口横にある冷凍庫に寄りかかりシフト表を眺めてる。


 ああ、そうそう。
 設楽さん、部屋の使い方がめちゃくそ汚い。いつも9時以降の早番の時間に帰るから良いんだけど、たまに、ほんとたまーに7時台とかに帰りやがるんだよね。
 テーブル周りはゴミゴミゴミ、ベッドもその周りもぐちゃぐちゃ、風呂なんかもうゴミもあるしびちゃびちゃだしむわっとしてるし、当たった日は翔君と二人で愚痴祭だったりする。
 いくら暇でも朝っぱらからあの部屋は掃除したくねぇよ。


 


[*←][→#]

7/42ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!