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中編
21
 


 宿所の老夫婦との連絡くらいは取れないと、土地勘のない自分が迷ってしまった時に困るだろうと持ち歩くしかなくて。
 通信が出来れば必然的に誰かしらメッセージを送ってくると分かっていたから、ここに来る前に知らせはした。
 返事はしないと言ってあっても送ってくるのだから、まったくさみしがり屋ばかりだ。



 彼から送られてきたメッセージは、きっと他の友人達にも入っているだろう。
 2、3年続いていた恋人と別れた理由は本人に聞かなければ分からないが、話の内容次第では復縁も可能だと思うくらいには彼らは互いを想っていたのを知っている。

 車に戻るまで無言で歩き、走り出した車内も静かだった。
 久住さんの横顔からは何かを考えてはいるように見えるが実際どうかは分からないまま、窓から流れていく景色を見ていた。


 商店街と宿所との中間辺りに差し掛かった時、ポケットの中の携帯が違う振動を発した。

 電話である事が分かって、ついでに発信者が誰かも予想できてしまったので放っていたら、久住さんが小さく「出ないの?」と言った。



「……連絡取らないって言ってあるので」
「親とかじゃねぇの?」
「それはないですね」
「親とあんまり仲良くないの」
「……久住さんの所よりは悪いです」
「いや見たことねーじゃん」
「仲良さそうな気がしたので」
「まあ、悪くはないけどさ」



 話をしているうちに振動は止まり、少ししてまたメッセージ通知の振動がきて携帯は静かになった。

 宿所に着いて助手席を降りると、久住さんも運転席から出てきて「縁側行こ」と何故かまた引っ張られる。
 裏手に回ると畑が見えて、縁側には今朝洗ったカゴが立てられていた。



「ここらへんは皆家族みたいなもんだからさ、楓が親と仲良くないって言ってもあんま分かんねぇや」
「…人口が多ければその分色々な家庭がありますから。向こうでは家庭ごとの隔たりが当たり前のように存在していますが、もちろん仲の良い所だってあります」



 そうだよな、と畑を眺めながら頷いた久住さんは縁側に胡座を組んで少しだけ背中を丸める。

 地元の人たちからすれば、小さな町の少ない人口で生きているここの人達の家族のような触れ合いに驚いてしまうのかもしれない。
 どれだけ親しくても用心深く隔たりは必ずあって、本当の家族のようにはならないのだ。




 きっとこの町の誰もが、生まれた時から当たり前のように赤子を皆で愛でていく。そうして繰り返されてきた関係は自分が慣れ親しんだ都会では戸惑いを生む。

 当然自分だって、商店街での店主たちからの親しげな言動に驚き戸惑い笑うしか出来ずに自然と壁を作っていたはずだ。

 これ以上は入らないでほしいというパーソナルスペースが広くなるのは、過ごしてきた環境が影響している他ないだろうけれど、もしここに住んでいたなら自分も周りを家族のように思えただろうか。


 静かな場所では、再び震えた携帯の振動音がよく聞こえてしまう。
 きっと隣の彼にも聞こえているだろうに、それについては何も言われなかった。



「楓は向こうの友達と居て楽しいって言ったよな」
「言いました」
「俺はダチと居て楽しかったら、やっぱりいつも楽しいから、自分で決めて連絡取らないって考えらんねぇんだけどさ」
「……」
「でもそれは俺だからだって考えてて、楓は違うんだって、そういうヤツも居るんだって考えたら、……なんか難しいな」



 自嘲のような笑い声に、俯いたままの彼を見下ろした。



 

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