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中編
05
 


 ゆっくりしたにも関わらず清掃は1時間ちょいで終わってしまった。
 1時になって宿泊に切り替わり、在室は5。あと全部空室。暇すぎる。



「備品も補充いらねーしなぁ、メシも出ないし、暇だね」
「うん。……あ、AXで映画やる」
「どれどれ」



 フロントのイスに座って在室確認画面を眺めていると、マネージャー用のパソコンデスク前のイスに座っていた翔君が、客室にも置いているAXの月刊番組表を見て呟いた。

 キャスター付きのイスに座ったままゴロゴロと近寄れば、番組表を俺も見えるようにしてくれる。優しさが然り気無い。



「3時かー、絶対暇だよな」
「ね」



 アニメ映画は3時から。その時間は大概暇。
 翔君と顔を見合わせ、どちらからとなくニヤリと笑う。つまり、空いている事務所に近い部屋で観るか、というアイコンタクトだったりする。


 今は1時半。まだ時間はある。


 それまで何してようかな、とやることを思考で巡らせていたそんなとき、来館を告げる電子音が鳴った。
 二人して駐車場を映すテレビに目をやったが、車はない。
 自動ドアが開くと、タッチパネル前に男女が立った。


 貫禄あるどっしり肥えた体をスーツに包んだ男に、軽い服装の女がテレビに映る。
 その見覚えのある容姿に、翔君を見れば。



「……社長きた」
「だよな、設楽さんだ」



 そう、その男の方はここの常連だ。
 ちなみに社長かどうかは知らない。見た目社長っぽいし連れが外人だからそんな所から翔君が付けたあだ名みたいなもの。

 名前は、メンバーズカードを登録する時に使う紙にそう書いてあったから。


 一ヶ月以上来ないときもあれば、ほぼ毎日来たりする、いつもこの時間に現れる常連。
 レンタルもルームサービスも、決まった物を頼むから覚えやすく、そしてその準備にはひとつの遊びを含んでる。



 入室したのを確認した俺らは流れ作業を開始。
 まず翔君が備品置き場兼休憩喫煙所に入り、いくつかの小さいお菓子の入った籠を持ってくる。
 俺はその間にトレーと定食用の皿を並べ、フロントに入り机の反対側にある貸し出し用洗髪料やボディーソープ類が置かれた棚の前に立つ。

 それをしながら翔君に話しかける。



「やっぱタヴかな」
「んー」
「×3?」
「俺はアジエンス」
「まじか。じゃあ、俺トンカツ」
「今日はエビ」
「割れたー」



 サクサク会話をしながら手を動かし、とりあえずシャンプー、リンス、ボディーソープのタヴを取る。
 常連である設楽さんは決まって、貸し出しのシャンプーリンスボディーソープが、ダヴかアジエンスのどちらか。
 ルームサービスはトンカツかエビフライ定食、飲み物はコーラかメロンソーダ、そして必ずお菓子詰め合わせを頼む。ちなみにお菓子は不動だ。


 その二種類の選択肢で小さな賭け事をしてちょっとした遊びをするのも常。
 だって面白い。





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あきゅろす。
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