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中編
16
 



「つれないねえ」
「勝手に手伝い決めたのに何を言っているんでしょうね」
「いーじゃん、楓暇でしょ」
「……呼び捨てですか」
「ダメ? あ、俺は久住晃な、よろしく」



 本当に年上なのか疑うくらいの気楽さに面食らうも、自己紹介を受けてしまったので「平塚楓です」と小さく返してから南瓜を抱えた。



「俺も晃でいいから」
「久住さん早く運んでください」
「素っ気ないなー」
「はい南瓜」
「うわ重っ」



 一番大きい子ですからね、と言葉を置いて出入り口辺りに停めてある軽トラックに向かうと、重いと言ったわりに軽々と小走りしてきた。



「ん?」
「軽々と運びますね」
「まあこんくらいは軽いからなあ、鉄筋に比べりゃコップくらい」
「……鉄筋?」



 荷台に南瓜を並べて再び縁側に戻りながら、彼───久住さんは「たまに建築の運び屋やってっから」と笑顔を見せる。

 久住さんの家は飲食店らしいのだが、彼自身は料理が苦手で食材の買い出しや荷運び専門らしい。
 近所の仕事の手伝いをしていくうちに色々なものを運ぶようになり、一番重いものでその鉄筋だったと言う。
 荷運びをしていると自然と体が鍛えられて良い、と彼は楽しそうだった。



「楓は料理出来んの?さっき作ってたけど」
「あぁ…簡単なものなら。あとは教えてもらうかレシピがあれば大抵は出来ると思います」
「すげー。俺細かいの苦手でさ」



 なんとなくそんな気がした、と思ったが口には出さずトウモロコシが山積みになったカゴを軽々と持ち上げた久住さんは、何故かトウモロコシを一本手渡してきた。



「じっさーん、楓借りてくなー!」
「おー、楓君に変なことすんなよー」
「しねーよ!」



 縁側から声を張り上げた久住さんに肩が強張り、御主人の返事に「えぇ…」と声が漏れて久住さんが笑った。



「んじゃ行こうぜ」
「ああ、はい」



 軽トラックにトウモロコシのカゴを乗せたその上に、持たされていたトウモロコシを置こうとしたら何故か持っててと言われて首をかしげる。



「なんか似合う」
「喧嘩売ってます?」
「売ってない売ってない」



 ケラケラ笑いながら運転席に乗り込む彼に、このまま乗らずに部屋に戻ってやろうかと本気で考えたが、促されてしまったので仕方なく助手席に乗った。




 軽トラックは宿所を出て商店街の方へ走っていく。歩くよりも早いが車にしてはゆっくりで、流れる風景をトウモロコシ抱えて眺める自分が滑稽に思えた。



「楓はさー、地元で友達多い?」
「まあまあですかね」
「楽しい?」
「楽しいです」



 トモダチと会話してふざけているのを見るのはそれなりに楽しいし、バイトだって飲食店で厄介も多いが遣り甲斐があって楽しい。
 そのトモダチからの連絡を返していない事には目をそらし、片手でハンドルを操作する久住さんを見ると目線だけ寄越された。



「この道には慣れてっから大丈夫」
「……」



 運転に不安があると思われたらしく、さっきまでのカラカラした声ではなく安心させるような音に少しの緊張を自覚した。

 軽トラックは商店街の通りを一本ずれた道に入り、すぐに停まった。



「まずはこっちな」



 車から降りると南瓜をふたつ持ち上げた久住さんは、トウモロコシを別のカゴに五本ほど乗せて俺に渡した。
 俺には片手で持てる重さではなかったが、やはり力はあるようで動きが軽い。



 


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あきゅろす。
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