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中編
14
 



 ───三日目の朝方、目を開くと視界に時計が入った。薄暗い部屋で時計は5時を回っていてゆっくり起き上がる。
 今までずっと抱えてきた寝起きの気怠い重さはなく、トイレを済ませて浴室で顔を洗った。

 着替えてから昨日と同じくらいの時間に裏手へ回ると、御主人が既に作業着に身を包んでしゃがんでいる。



「……おはようございます」
「おう、おはよう。眠れたかい?」
「スッキリしてます」
「そりゃよかった」



 立ち上がった御主人は歯を見せて笑い、今日はここの間引きをしてみるか、と横の植物を指して教えてくれた。
 澄んだ空気を吸い込んで、御主人と同じようにしゃがみ、場所を教わりながら間引く作業を手伝う。



「良い判断してるな、こっちもやってみるか」
「結構取るんですね」
「これで栄養が集中して旨くなる。数は少なくなるが、近所だけで使うからどうせなら旨い方が良いだろう」



 大量生産でどこかへ出荷するわけでもないなら、量より質で良いのだろう。この量でも充分過ぎるくらいだからと商店街に売っているらしい。
 昨日軽トラックを引っ張ってきた彼は野菜を買い取りに来ていたのか、と荷台にあった土のついたコンテナを思い出した。


 間引きが終われば昨日採りきれなかった野菜を収穫する作業に入り、空いた場所の雑草を抜いたり固くなった土を砕いたり取り除いたりして、気が付くと日が高くなってきていた。



「今日はこんくらいにするか。水やって戻ろう」
「わかりました」



 土の付いた手を叩き、ノズルの付いたホースを持ってきた御主人の水やりを見ながら野菜を縁側に運び入れる。
 今日は南瓜が多い。昼間には昨日の彼がまた野菜を取りに来るらしく、縁側に置きっぱなしで良いよ、と御主人は言った。



「ついでにモロコシも買ってもらうかな」
「沢山採れましたね」
「食いきれんからなあ」



 山積みになっているトウモロコシを一本取ると、ずっしりとした重みが手にかかる。
 地元に出てたら高そうだなと、今まで見てきたトウモロコシの太さとの違いを思いながら毛束を撫でた。



「すまんが水止めてくれんか?」
「はい」



 水道で蛇口を閉めると、ホースを抱えた御主人がノズルを弄っていた。
 どうしたのか聞くと、水を止められなくてと首を捻っていてノズルを受け取った。
 どうやら出したり止めたりする所が引っ掛かっているらしく、一度外してはめ直し、蛇口を開いて水を出して止めてみた。
 直ったそれに御主人は「なるほどなぁ」と心底感心したように声を上げる。



「外してはめ直せば戻りますよ」
「ありがとなぁ、最近買ったばっかりでよ、びっくりしたわ」



 ホースを巻いて物置に戻した御主人は笑って「助けてもらってばっかだなぁ」と俺の肩を叩きながら言う。



「いえ、お世話になっていますし」
「んならまあ、おあいこにしとこうかね」



 朝飯にしよう、と縁側に戻っていく背中を見て、自然と笑みが浮かんだ。
 助け合いが当たり前のように行われている小さな町は、人が少ないからこそみんなが温かいのだろう。

 なんとなくそう思って、縁側から居間へと野菜を運び入れると、何故かそこには御夫人と談笑するツナギ姿の彼がいた。
 頭にタオルは巻いておらず、長めの髪を後ろに流して結っている。タオルで隠れていたから短いと思っていた。



「よ、おはよーさん」
「……何で居るんです?」
「暇だった」



 あっけらかんと言った彼に対して溜め息を吐きそうになったが、飲み込んでカゴをビニールを敷いたテーブルに置いた。


 


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あきゅろす。
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