中編 名前と中身が合っているとは限らない。 羽田は色々知ってる。 噂話、人間関係。頭が良いのもあるけど、どっから拾ってくるのか疑問なものまで知ってる。 見た目は委員長みたいなイメージだけど、こいつは委員長じゃないし、毒舌だし腹黒いし意地悪いし、とにかく質が悪い。 でも優しいとこもある。ただ優しいだけじゃない、諭すような優しさ。 男前なメガネだまったく。 「まあ、お前と宇佐見じゃ、正反対だよな」 「え?」 なにが、と聞くように見れば、羽田は紙パックの紅茶を飲んでいて、考えるような素振りをする。 「お前ゆるい喋り方するわりに、どっちかっつーと、せっかちだろ」 「んー、まあ、そうかなあ」 確かにまあ、マイペースがサクサク行きたいタイプだから、何かと決めなきゃいけないことはきっちりしたいし、白黒はっきりさせたい感じだけど。 「で、宇佐見はマイペースゆるいだろ」 「…まあ、結構のんびりだね」 たかが半年、たかが放課後の少しの時間の宇佐見しか知らないけど。 それでも半年見てきた宇佐見は、マイペースが結構のんびりしてる。動きがゆっくりなわけじゃないけど、なんか雰囲気が緩やかというか。 「宇佐見のあだ名はウサギだし、お前のあだ名はカメだし、あだ名も見た目も正反対だよなって話」 「あー…うーん?」 俺ってそんなのんびりしてるのかなあ…。しゃべり方は確かに緩いけど。 宇佐見もあんな雰囲気緩いのに、せっかち寄りに見えんのかな。 もしかして俺だけ?え、勘違いしてんのかな俺。 「……また百面相」 「ん?なんか言った?」 「なんでもない」 このやりとり二回目だけど。 目の前なのに聞こえないとかどんだけ小声なんだこいつ。 「硬派っぽいよな、ウサギ」 「軟派だったら泣くよ俺」 「まあ、ビビるけど泣きはないな」 「……」 いや、うん、まあ、ビビるけど。あれでチャラかったらマジでビビるけども。 でも放課後はいつも準備室にいるし、本当に分解組み立てとか好きそうだし、週末も部屋に引きこもってるって言ってたし。 硬派とか軟派とか以前に、恋愛に興味なさそうだ。 …うーん。それはそれで複雑。 「…ま、あるよりマシかなあ」 「なにが?」 「こっちの話ー」 もし、宇佐見に彼女が出来るとしたなら、きっと同じ趣味をもつ子だと思う。たぶん。 そんな女の子はあんまりいないとも思うけど、人間は腐るほどいるわけで、同じ趣味を持ってる子だって一人二人いるはず。 どうかそんな女の子と出会いませんよーに。 羽田の紙パック紅茶をいただきながら、そんなことを思った。 [*←][→#] [戻る] |