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中編
風の便り。
 



「カメ、最近放課後付き合い悪いって女子が嘆いてたぞ」
「なにそれ」


 昼休み、前の席の友人、羽田が呆れたように言ってきた。
 放課後は理科準備室に行きたくて、というか宇佐見に会いたくて、いつも授業が終わると脇目も振らず準備室に向かうようになった。まあ宇佐見の了解なんてなく一方的にただ居るだけなんだけど。
 宇佐見も何も言わず、話しかければ答えてくれるし。まあ、結局俺の一方通行なんだけど。


 あれ、そう考えたら俺って結構うざい?あそこに逃げ込んでから、勝手に居座って邪魔してるようなもんだし。
 なんか、ちょっと、へこむ。


「いつもどこいってんの」


 横向きで怠そうに座る羽田は、俺の使ってる机に頬杖ついてパンを食ってる。行儀悪いぞ真面目キャラのくせに。


「ん、理科室」
「理科室?」


 はあ? みたいな顔されても。
 だけどそれは俺と羽田では意味が違ってた。


「あそこ、ウサギの巣だろ」
「……ウサギの巣?」


 今度は俺が、はあ?ってなった。
 意味が分からない。ウサギの巣ってなんだよ。
 それが顔に出てたのか、羽田は訝しげに見てきた。失礼な。


「宇佐見だろ、そこにいんの」
「羽田、宇佐ちゃん知ってんの?」
「知ってるやつ結構居るぞ。いつもなんかよく分からない事してるって」
「……」


 そうなんだ。
 てか宇佐見って結構有名なの?
 あれ、だから俺が準備室に逃げ込んで女子が来たとき、あまり驚いてなかったのか。知ってたんだ、宇佐見がいること。

 ちょっとモヤッとする。


「まあ簡単な話、宇佐見だから、ウサギ。あそこにいつも居るから、ウサギの巣」
「……なるほど」


 羽田のそんな説明に、なんでかすんなり納得してしまった。
 理科の先生と仲が良いらしい宇佐見は、趣味に没頭出来るからと準備室を放課後借りている、とは本人から聞いた。
 家だと落ち着いて出来ないって。
 逆じゃね?とは思ったけど、言ったけど、色々あるんだとしか答えてくれなかったな。


「あいつなー、結構女子に人気らしいけど、あの性格だろ?取っつきづらいから近寄れないし、話続かないって、何人泣かせてきたか」
「なんでそんな知ってんの」
「風の便り」
「うーそだー」
「グループ作って騒いでりゃ嫌でも風に乗って聞こえてくんだよ」
「……確かに風の便りだ」
「だろ」


 いや真面目な顔して言わなくても。


 あー、でも、そっか。
 宇佐見の見た目はイケメンだし、寡黙で何考えてんのか分からないミステリアスな雰囲気はあるけど。
 身長高いし、抑揚がない声は低め、若干目付きは悪いけどそれも良い感じになってるんだろう。
 一途、っていうイメージなのかも。
 宇佐見は密かに人気なのか。
 うーん。やだな、あそこに女子とか来んの。


「……百面相」
「え?なに?」
「なんでもない」


 なんだよ。
 人の顔見て溜め息吐くとか失礼な。


 

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あきゅろす。
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