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中編
02
 


 たまには自炊しよう、と冷蔵庫を開けてみる。
 この間寄り道した安い店で、野菜や肉を買って冷凍庫に入れていたのだ。魚や冷凍してもいい野菜やキノコ類などが思ったより詰まっていて、一緒に覗き込んできた翔君に何が食べたいか聞いてみた。



「由貴作るの」
「うん。時間あるし、折角買ったから」



 ふうん、と呟いた翔君は、冷凍や冷蔵室に入っていた食材を思い出しているのかフラフラと視線をさ迷わせてから「由貴が食べたいものでいい」と答えた。
 作るのが俺だからなのか思い浮かばなかったのか両方か、好き嫌いがあまりない翔君のことだから何でも食べるだろう。

 適当に食材を出して適当に作業を始めると、邪魔にならない場所で翔君がじっとこっちを見ているのに気付いて笑ってしまった。
 本当かわいい。



「今日は鶏肉?」
「そう。照り焼きとあとなんか作ろうかなと」
「楽しみ」



 緩やかに笑みを浮かべたその顔に、可愛い悶えメーターがぶっちぎって急上昇した。
 ほいほい見せないものだからこその価値がある翔君の笑顔を、こんな頻繁に見られる俺は幸福者である。

 幼子みたいに作業を見つめる翔君が可愛い過ぎて指を切りかけたが、なんとか作りながら小分けして冷凍しておいた米を温め、それを翔君に茶碗にあけてもらう。

 可愛い翔君が見られて二人きりでこの時間を過ごせるとなれば、なんか、自炊するの癖になりそうだ。
 これから頻繁にやろう、と心に決め、テーブルにおかずの乗った皿を持っていく翔君に癒された。








「ご馳走さまでした」
「お粗末様でした、と」



 無表情で手を合わせた翔君は、おいしかった、と皿を片付けながら言う。
 この見慣れた無表情でも、嘘ではないことはもう分かる。細っこいのに大食いな翔君だから量を多くしたのだが流れるように完食してくれた。
 洗い物はする、と言ってくれた翔君に甘えてそれを任せてテーブルを拭いていると、携帯が鳴る。

 lineかなと片手間に画面を叩くとマネージャーからで、今日は夕勤から3時までの出勤で入ってたよなとシフトを思い出しながら、なんかあったかなと目を通したら、「あいつヤバイ」という謎の六文字があった。



「は?」



 溢れた声に開いた口が塞がらず、間違えたのかなと思っていると続けて吹き出しが増えた。


『あいつヤバイ』
『完全に河内が小山にロックオンされてる』
『しばらく夕勤いれない方が良いかもしれない』



「……ええー…」
「どうしたの」



 予想外なマネージャーからのlineで呆気に取られていたら、皿洗いを終えた翔君が背中にのし掛かってくる。
 lineの画面を見せると、体をずらして目を通した翔君は俺と同じように「ええ…」と無表情で吐き出した。



「確かマネージャーには言ってないよね」
「言わずとも気付かれるやつ」
「本人いねーのにどんだけ…」



 翔君を見る目や対応で気付いたりはするだろうけど、本人がいない時間にマネージャーがこれだけはっきり言ってくるのは、小山くんの翔君への気持ちが駄々漏れってことだろ。
 ていうかロックオンってなんなん。あの人予想外の出来事に混乱してんのかな。

 普段冷静なマネージャーがこんな風にlineを送ってくることはない。たまになんか変なのぶっこんで来るけど、接しているとイメージがクールという固定があるから忘れるわ。


 

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