[携帯モード] [URL送信]

中編
04
 


 そわそわしている小山くんに初々しさを感じながらも、それが故の暴走も危惧しなくもない。
 爽やかで愛想よく人好きしそうな小山くんは、気持ちと行動のコントロールがうまく出来ないで暴走するか、その裏側の策士な一面の可能性があって計算している腹黒さを持ち合わせているかのどちらかである。

 陥れる、なんて言葉は悪いが無いとは言えないけれど、例え小山くんがどちらかの行動に出たとしても翔君がそれに飲まれる可能性は、正直かなりゼロに近い。
 何故ならば、無表情無口無愛想で気だるげなのにノリ良く結構喋る翔君は、しっかり自己を完成させている上にはっきりその自己を理解しているからだ。

 これは今までの三年で確信を得るほどそれを垣間見ている。

 頑固というわけではない。
 ただ、どんな濁流の中でも見失わないほど確立された自分自身を持ち理解しているからこそ、翔君はあの態度でもここの従業員に可愛がられている。
 何かと相談を受けることもあるし、マネージャーも仕事絡みの相談してるのをたまに見かける。マネージャーなのに。


 そんな翔君の恋人になれた俺。
 喜びで上の空になるのも無理はない。



 喫煙所兼休憩所から出てきた二人は、翔君が宮田君に背後から抱き着かれている状態だった。
 なにこの癒し組。単体でも癒されるのにダブルでくるとか強すぎる。

 やる時はやる男な宮田君は普段それが嘘みたいにぽわぽわしていて、デカイし元気で少年なのに癒し系も兼ねている。喧しい元気さではないからかもしれない。
 後ろで花を咲かせている宮田君を引きずるように翔君は無表情のままフロントに入っていく。


 0時になって夕勤メンバーがタイムカードを切っていき、夜勤も同じように入って、俺はなにもしない。
 夜勤が夕勤に入るときは、あまりの暇さでなければ3時まで居る。
 平日休みな社会人もいるから入るときは日曜祝祭日も関係なく夜中に次々入ってくるし、食事サービスを利用するのに平日を狙ってくる客も当然いるわけだ。


 翔君と会話したそうな小山くんだったが、ずっと宮田君が張り付いているからか一番最後に諦めて帰っていった。
 どうやら小山くんは翔君単体の時の方が良いらしい。それか単純に邪魔することが出来ないか。
 表情豊かな宮田君と無表情の翔君だけれど、会話はそれなりに交わしている。というか宮田君がずっと喋ってる。

 殆ど週一だもんなあ、と横で戯れる二人を見ると思う。
 翔君が夕勤の時は立場が逆になって、俺に宮田君がずっと張り付く形になるんだけれど、それでも思う。
 さながら大型犬である。

 そんな二人を眺めていると、宮田君が翔君から離れ、にこにこしながら言った。



「あの新人君、翔さんのこと見すぎですね」
「え」
「……」



 大学で見た友人を好きになりかけている女子に似ている、とあまりに分かりやすい説明に俺と翔君は互いに目を合わせてから宮田くんを見た。
 思案するように天井を見上げていた宮田君がそれに気付いて首をかしげたが、にこりと笑う。



「なんか気に入らないから隙を見せないように喋りまくってたんですけど」



 まさかの発言に宮田君の新たな一面を垣間見た俺は、なんでそうなった、とつい呟いてしまった。


 


[*←][→#]

28/42ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!