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中編
03
 


 とりあえず翔君の人間性に関しては小山くんが自分の価値観で見て、気になるってだけでその興味を燃やし尽くしておいてほしいものである。
 これから先の可能性として恋愛感情で好きになって翔君にアプローチをかけて来ることになっても、俺は翔君を手離す気は更々ない。翔君もアプローチされたからって興味を持つかどうか分からないけれど、そう軽々と状況を一変させるほど気持ちは軽くないと信じたい。



「まあ、とにかく、人伝ての印象だとそれが固定されることもあるし、聞くより自分で見つけた方が良いかなあと俺は思うな」
「…そうですよね、ありがとうございます」



 爽やかに笑った小山くんは、丁寧に軽く頭を下げてから納得したように頷いた。
 神原くんらしいね、と聞いていたおっちゃんに言われ、そうかなと思いながらもそれには首をかしげておくだけにする。

 すっきりした顔の小山くんはタオルを折り始めたが、女性陣がちょっかいをかけるせいで中々進んでいない。
 まあタオル残ってもまったく問題ないんだけどな。

 何となく時計を見上げるともうすぐ翔君と宮田君が出勤してくる時間で、一週間くらい顔を会わせてない宮田君に対するワクワクと翔君への愛しさに包まれる。

 たぶん宮田君が先だなと予想していると、従業員用の出入り口が開閉する音がしてそっちに目をやった。事務所に続く扉が開く。



「おっはようございまーす」



 夜勤でたぶん俺よりも元気で、二十歳ながら少年感漂う宮田君は小山くんとは違う太陽みたいな爽やかさで笑顔を振り撒いて言う。
 それぞれ挨拶をする夕勤メンバーの一人一人に律儀な返事をする宮田君は、俺と目が合うとまるで迎えに来た親を見つけた子供のような顔で突進してきた。
 咄嗟に身構えたが衝撃で「うっ」と声が盛れる。



「おはようございます由貴さん!」
「おはよ、宮」



 包み込むように抱きついた宮田君の背中をポンポンと叩くと、嬉しそうに体が揺れる。
 宮田君はこのホテルに居る全ての従業員の中で一番の長身だ。高校までバスケをしていて鍛える癖がついたらしく、体格もしっかりしている。二十歳になっても伸び続けているらしい身長は、最近聞いた話ではもうすぐ190に届きそうなのだとか。

 そんな巨体に会うたび抱き着かれている俺だが、流石にもう慣れた。
 抱き着くようになったのはここに来て一ヶ月くらいとかなり早い。なんでこんなに懐かれているのかは謎だ。ちなみに翔君にもしている。
 翔君は細身だから体格差のせいで余計に大人と子供のように見えるが、中身も年齢も逆である。


 抱き着いて満足したのか離れた宮田君に夕勤面子は慣れた様子だが、入って間もない小山くんには不慣れな光景なせいかぽかんとしている。

 休憩所兼喫煙所に引っ込んだ宮田君を見送ると、静かに出入り口の扉が開かれて翔君が出勤してくる。
 あからさまに反応したのはやはり小山くんで、真っ先に挨拶していてちょっと笑ってしまった。

 静かに挨拶してる翔君を見ると目があって、笑いかけたら翔君は柔らかな雰囲気の目にゆるりと口許を綻ばせた。


 可愛い、嬉しい、好きすぎる。


 宮田君が居るであろう休憩所兼喫煙所に入っていった翔君は、案の定宮田君に抱きつかれたらしく「翔さんおはようございます!」という宮田君の声と翔君の「うっ」という声が同時に聞こえた。


 


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