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中編
18時から3時の間に。‐01
 


「───ユッキー最近さぁ、上の空っつーか、ふわふわしてるよね」
「テンションはいつも通りなんだけどねぇ」
「熱でもあるのかなぁ」
「体調悪そうには見えないけどねぇ」



 聞こえてますよそこの主婦とおっちゃん。

 フロントの出入り口前でこそこそと話してる夕勤二名は暇なのか。
 他の人は掃除やら備品整理に勤しんでるっつーのに、暢気に人の観察してやがる。
 くるりとイスを回転させて二人と向き合うと、二人はぽかんとした顔で俺を凝視した。



「なにさその顔」
「いや、」
「なんでそんな顔赤くして拗ねてんのよ」



 おっちゃんは戸惑っているが、河瀬さんは遠慮なく指摘してきて口を尖らせる。

 上の空とかふわふわしてるとか言ってたけど、仕方ないじゃん。


 翔君と初めて遊んで初めてお泊まりして、自分の気持ちがはっきり分かって暴露したら何故か結ばれた日から、早くも一週間が経っている。
 仕事中は何も変わらないけれど、終わったあとに遊んだり翔君が家に泊まる事がかなり増えた。一週間のうちの殆ど、それこそ仕事が夜勤だから四六時中一緒にいる。

 翔君も俺も、仲良くなったりすれば言いたいことはすぐに言うタイプで、普通なら恥ずかしがって言いづらいような事もズバズバ伝えちゃって、でもお互いにそれが普通だから素直に受け入れている。
 距離感はかなり近くなった。
 第三者から見るとあまり変化はないみたいだけど、内側の距離というか、スキンシップもいつもと変わらないのに、お互いの全身から滲み出ている愛しさがたまらなく心地好くて。

 俺は週一の頻度で夕勤にぶっ込まれているから、幸福感に満たされている俺を珍しいものでも見るみたいな顔をされるのは仕方ないのかもしれない。

 夜勤の宮田くんと並木さんには、付き合ったその翌日にlineで報告済みである。
 あまり被らないから、一週間会わないこともあるけど、その時は予想外にも並木さんの招集がかかり、四人で会って改めて口頭で伝えた。
 驚いてはいたけれど、二人とも凄く喜んでくれて並木さんなんて「次会うときに赤飯持ってくるね」と素敵な笑顔で意気込んでいたからそれは遠慮した。
 嫌悪されたりするかもしれないとは思っていたけれど、そんな空気はまったくなくて、むしろ「今まで付き合ってなかったのか」という言葉すら出てきて俺と翔君が驚いたくらいである。

 ちなみにマネージャーにも伝えたら、三人してなんなのか「お前ら付き合ってなかったのか意外」という返事がきたので笑ってしまった。笑うしかない。


 だけど、伝えるのは三人だけにしようと翔君と決めていた。
 夕勤にも早番にも、仲良くしてくれているけれど皆が皆、三人みたいに歓迎してくれるとは限らないからだ。
 むしろ喜んでくれた三人が珍しいだけなのだ。


 だから俺はいくら表に幸せが滲み出ていても、それを伝えるつもりはない。
 交際宣言なんてのは特に必要なものでもないから。



「ちょっと良いことがあっただけ」
「良いことってなによー」
「教えなーい」



 騙すわけではない。全てを教える必要がないのは誰だってそうだ。
 気づかれたりもしない。なんせ俺も翔君もいつも通りだからな。



 


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