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中編
09
 


 緩やかな会話で癒されて、モーニングを作って持っていき、追加のモーニングや退室した客室の清掃を気分よく片付けていくと、気付けば早番が出勤してくる時間になっていた。
 たいして客が入っていない日は八時半を過ぎると清掃ではなく、はがしだけで済ましてしまうことが多い。
 朝夕は人数がいるから片付けちゃうと暇になるし、ろくに仕事しないからね。と言っていたのは勤務歴最長の白石さんである。
 容赦ねえなあ、と笑うけど、事実だから否定はしない。ていうか出来ない。


 従業員出入り口が開閉される音で、二人して入っていたフロントから出るとやはりというか一瞬驚いた白石さんが「おはよう」と言ってきたので、二人で「おはようございます」と返した。



「今日はシンプルなんだね」
「翔君も気に入ってくれたんだー」
「これ楽」



 微笑ましく頷いてくれた白石さんは、休憩兼喫煙室に荷物を置きに行った。


 それから九時までに次々と早番が出勤してきて、引き継ぎをしながら帰る準備を進めていく。
 早番のパートさんたちは翔君の髪型を見て一瞬驚くものの、なかなか好評である。



「今日の河内君の髪型いいね」
「でしょー?」
「神原君本当器用だよね」
「でもこれ簡単だよ」



 ぼんやり立っている翔君をお母様たちが囲んできゃいきゃいしてる。ちょっと翔君が困ってる感じに見えて、「はいもう帰るからねー」とやんわり笑って解放すると、翔君は圧力がどうとか小さく言っていて笑ってしまった。


 九時になってタイムカードを切り、パートさんたちに挨拶してから外に出ると結構いい天気で少し眩しい。



「翔君どうする、一回帰る?」
「このままでいい」
「おっけー、じゃあとりあえずファミレスかどっかで時間潰そ」
「うん」



 今の時間はまだ遊ぶにも店が空いてないからと、自転車の鍵を差し込みながらそんな会話をする。
 大型商業施設は十時開店ばっかりだから仕方ない。
 近くのファミレスまで行ってのんびりしよう、と並んで自転車をこぎ出した。


 そーいや翔君と遊ぶとか初めてじゃないかなあ、と横にいるその姿を見て嬉しくなる。

 早番や中番の人たちと飲みに行ったことなら何回かあるけど、翔君は一度も来たことがない。
 飲めないわけではないけど、そういう集まりは苦手だから気にせず誘わなくて良い、と言ってたのは働き出して初めて飲みに誘われた時だった気がする。
 俺が翔君と出勤前にご飯食べたりするようになったのは、けれども割りとすぐで一年経たないくらいだった。
 フレンドリーではないものの何故か気に入られたり嫌われるようなタイプではない翔君に興味が湧いて、なんやかんやシフトが被るときはその無表情で無口で喋っても抑揚がなくて、けれどノリが良いというギャップに見事ドハマりしたわけで。
 無口だけど会話は成り立つし、雰囲気や微かな表情の変化で理解できたりした時は心底嬉しかった。
 翔君はミステリアスだと思うけど、実際普通にふざけたり乗ってきたりちょっとぶっ飛んだ事を言ったりするけどそれに違和感がないし、なんていうか、俺からしたら翔君は見た目格好良くて中身可愛いという認識で固定されてしまっている。

 また少し距離が縮んだような、そんなむず痒い感覚になりながらも、翔君といる時間がとても心地よく思えた。



 


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