[携帯モード] [URL送信]

中編
08
 


 四時過ぎになって二階の一組が退室し、さっさと掃除して部屋を作ってから、そのまま部屋のテレビを在室状況からアニメチャンネルに切り換えた。
 見た目が永遠の小学一年生である名探偵が何かと事件に巻き込まれたり首を突っ込んだりしているアニメで、どうやら今は昔の再放送らしい。絵が古い。


 50インチの大型テレビの前でソファに座り、背凭れに背中をくっつける。
 そのまま、前屈みの姿勢で浅く座る翔君の髪を左から右へ流すように三つ編み込みでまとめていく。
 なかなか伸びてきて今では肩甲骨より下にある髪は、やっぱりさわり心地がよくて髪型が作りやすい。
 抑揚なく「くすぐったい」と言いながらも嫌がらない翔君が好きです。



「でけたー」
「これ楽」
「マジか、さすが俺」
「これなら帰り解かなくてもいいや」
「マジか」



 どうやらそのまま帰るらしい。
 横流し三つ編みとか可愛い。

 結果にお互い満足して、名探偵が終わって五時になったので事務所に戻ることにした。
 六時からモーニングが始まる。ギリギリに注文してくる客もいるし、朝っぱらから入って来たり朝方帰る客もいるからだ。


 汚れやズレがないか確認して部屋を出ると、エレベーターが動いたのに気付いて来客を知る。
 平日五時入室って、元気だな。
 非常階段から事務所に戻って、翔君が駐車場を確認しに外に出ていったのを横目に、どの部屋に入ったのかをパソコンで見て紙に書き込んだ。



「四番、」
「うい」



 駐車場所の番号と車のナンバープレートを覚えてきた翔君がそれを教えてくれて、相変わらずな記憶力というか暗記力だなあと思いながら書き込んだ。
 電話が鳴ってウエルカムサービスを持っていき、予約分のモーニングを準備していると、やはり宿泊客からモーニングの注文が入る。

 最近の日本人は洋食ばっかりだ。
 米食え米、と翔君が言うのを毎回可愛いと思う。



「由貴、明日休みなんだ」
「おー、そういやそうだった」



 手が空いてシフトを眺めていた翔君に言われて、そうだったなと思い出す。
 感覚ズレてるから一日の境目が分からなくなるときがあって、三年過ぎてもたまになる。連勤してるときとかは特にそうだ。



「俺も休みだ」
「マジか遊ぼう」
「いいよ」
「え、いいの?」
「うん」



 わあ、やっぱりファミレスがラッキースポットだったの俺じゃね?日付変わってるけどあれまだ有効?
 ふざけながらの勢いだったため、了承を得られるとは思ってなかった。
 翔君はいつの間にかパソコンのインフォメーションで占いを見ていて、ちょいちょいと手招きされたから寄っていくと、ぴ、と指差されたそれを見る。



「魚座ラッキースポット、コンビニ」
「さすがアバウト過ぎる」



 コンビニって種類広すぎるだろ。いやしかしだ、勤務中の俺は自分にとって素晴らしい結果が多い。
 日付変わってラッキースポットがコンビニになって、深夜にコンビニ行ったし。



「侮れんなこの占い」
「良いことあったの」
「初っぱなの翔君デレ大セールとー、翔君のヘアスタイルとー、遊びに行けることとか」
「由貴ちょろい」
「知ってます」



 俺のチョロさは翔君に限るから、とドヤると翔君は少し笑った。
 そうだ一番はこの翔君の可愛さである。今日起きたときからずっと翔君が可愛過ぎてなんか既に愛しさにレベルアップしてるんだよなあ。びっくり。



 


[*←][→#]

17/42ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!