中編
07
「なんか腹減ったなあ」
「うん」
カツカレーを作って届けた後、ついでに各階リネン室のアメニティやタオルなどの補充具合を確認してから事務所に戻った。
時間は3時ちょい過ぎで、大体いつも同じくらいの時間に空腹感が出てくる。
ファミレスからこっち来るあいだにコンビニ寄れば良かったな、と思いながらも、休憩兼喫煙室にある荷物から財布を出してくる。
「翔君なに食べたい?」
「アイス食べたい」
「アイスはデザートな」
「……、中華丼」
「じゃあコンビニ行ってくるわ」
「気を付けてね」
「おーけー、すぐ戻る」
従業員用出入り口で靴を履き替えながら見送ってくれる翔君に笑いかけると、ほんのり笑顔を返してくれた。クソ可愛い。アイスはハーゲンにしてやろう。
暇な時間に腹が減ると、こうしてどちらかが買い出しに行く。
夜勤のお母さんが居ると問答無用でコンビニメシを差し入れてくれるから行かないが、翔君と二人の時は、あらかじめ買ってから出勤か途中で買う。
近くには牛丼屋とコンビニがあるから、まあ不便ではない。
新メニューが出たときは試食で腹を満たすけど。
寒くなってきたなあ、と思いながら深夜の空気を吸い込んだ。
コンビニから帰ってくると、翔君はテーブルに寄り掛かって携帯を弄ってた。
「ただいまー」
「おかえりー」
抑揚なく返されたそれに笑い、ガサガサと音を立てる袋からアイスをふたつ出して業務用冷凍庫に突っ込んだ。
「アイスはハーゲン」
「やったー」
無表情で万歳する翔君本当ツボ。
ありがとう、と言った翔君にお互い様よと返し、テーブルに向かい合って座る。
弁当はコンビニで温めてもらったのでホカホカである。
「はい中華丼とサラダ」
「ありがとう」
「俺は親子丼とサラダ」
「似合う」
「え、親子丼が?」
「うん」
「似合うとかあるんだ」
「分かんない、なんとなく」
「クソ可愛い」
いただきます、と手を合わせてサラダから手をつけた。
やっぱり翔君が食べてる姿が可愛い。何なんだろう、なんでこんな可愛く見えるんだろうな、翔君イケメンなんだけどなあ。
「ん、誰か入ってきたな」
ピンポン、と音がして駐車場に車が滑り込んできたのに気付いてフロントに入ると、翔君がプラスチックスプーンを持ったままついてきた。可愛い。
監視カメラの映像から、車が止まって若い二人組が出てきたのを確かめる。
エントランスの液晶パネルで部屋を選んだ二人はエレベーターで上がっていく。
入室を確認して、メンバーズカードが通されて会員の履歴を見てみると、宿泊の最大利用時間まで使うらしく、夜勤中には帰らないのでまあ問題ない。
備考欄を見ても特に問題のある会員ではない。
しばらくすると電話がきて、ウエルカムサービスと宿泊一品無料を利用する内容で、酒としょうが焼き定食を注文した。
比較的簡単だから、翔君に酒を任せてしょうが焼きを作り、二人で持っていく。
出てきたのは女性で、やはり翔君を二度見したものの俺らは気にせずさっさとドアを閉めた。
翔君は中華丼の残りを早く食べたいらしい。なにこいつ本当、なんか愛しくなってきたわ。
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