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中編
02
 


 ファミレスの前に着くと、停めた自転車に乗って少し猫背で携帯を弄る翔君を真っ先に見つけて自転車を隣に滑り込ませると、無表情でこちらに顔を向けた翔君は携帯をジーンズに押し込みながら「おはよう」と言った。
 まあ、もう夜だけどね。
 でも俺はそれに同じ言葉で返事をする。



「おはよ。待たせたーごめん」
「別に待ってない」
「やだもうクールジェントル」
「ハンバーグ食べたい」
「あれ、グラタンは?」
「気が変わった」
「内容が変わってもヘビーね」



 待っている間にグラタンからハンバーグに気分が移行したらしい翔君は、入店して席についてメニューを開いたら何故かパスタと悩み出した。その悩み方がまた可愛いと思ってしまう。
 人差し指の第2関節を甘噛みするのは癖なのか、それをしながら少しだけ眉を寄せる。
 その口元から目が離せない俺は、自分の食べたいものを吟味するよりそもそもメニューすら開いてない。



「どれと迷ってんの」
「目玉焼きハンバーグと明太パスタ」
「じゃあどっちも頼んで別けて食べよ」
「いいの?」
「もちろん。あとサラダもちょっと食べてー」
「うん、ありがと」



 無表情に見えるけど少しだけ柔らかくなった目と口を直視してしまったせいで、一瞬どきりと波打つ。
 ああ、もう可愛い。可愛い。
 なんでこんな可愛いんだろ、と疑問しながらも、俺はその奥を見ていなかった。



 翔君は無表情で無口で、だけど3年くらい同じ職場でだいたい一緒に仕事をしていると、喋らない代わりに仕草が言葉のように思える。
 それに、まったく表情が変わらないとか、全然喋らないってわけでもない。

 たまには笑うし、饒舌になる時もあるし、接客はちゃんとこなしてるし、コミュ障というよりは元々感動の振り幅が狭くて喋るのが好きではないだけだった。

 代わりにという感じで俺はよく表情が変わるしよく喋るせいか、やかましいとか忙しいとか言われることの方が多い。
 正反対だから合う所もある、なんてどっかの誰かが言っていた。
 別に俺はただ騒ぐのが好きとかではないし、翔君は一人とか静かなのが好きとかではないらしい。ノリが悪いわけでもなく、ふざけたり言葉遊びには静かにつきあってくれる。
 ひたすら騒がしいのと、状況によって騒がしいのとは違うと思う。どちらかと言えば空気を読むタイプらしい俺は、昔から盛り上げ役や相談役に宛がわれやすかったりする。


 相性が良い、と言われるくらいには、翔君と俺は職場でセット扱いだ。
 それを言われたときはむず痒い気分になったのを覚えてる。嬉しいけど何か痒いな、みたいに。



 運ばれてきた目玉焼きハンバーグと明太パスタ、海藻サラダを半々で別けて食べるその間の八割は無言。
 ゆっくりのんびりした雰囲気を感じているせいか、翔君と一緒に居ると無言が苦痛にならない。
 むしろ食べてる姿が可愛くて、ちらちら見ちゃうと気付いた翔君が咀嚼しながら首をかしげるもんだから尚更可愛くてニヤニヤも追加される。いつも。



「今日から中番に新人来てるらしい」
「え、マジで。どこ情報よそれ」



 粗方片付いたあとお茶を飲んでいると、サラダをつついていた翔君がクッションも突拍子もなく言った。
 中番は18時から24時までのシフトで、一番人数が居て一番入れ代わりが多い時間帯。大学生や暇になった主婦、フリーターなどがよく入ってきては、想像していたよりハードなのかすぐに居なくなる。
 フリータイムや休憩を使う常連客が24時の自動宿泊切り替えになる前にさっさと退室するのもあるが、休憩の回転が早いのもある。

 夜勤だからなのかは分からないけど、たまに中番に入っても忙しいとは思ってもしんどいとかハードと思ったことはない。
 短期で辞めたとか聞くと、耐え性ないなあ、なんて苦笑いするしかない。



「そっかー、明日中番なんだよなあ」
「明日来るかは知らないけど」
「まあね。どんな人かな」
「興味ある?」
「続きそうかどうか不安。人が居ないと中番ぶっこまれるんだもんさあ、俺はあの泥沼に居るより翔くんとのーんびり仕事したーい」
「うん」



 ほんのり笑った翔君に、まさか一緒に仕事したいってのが嬉しかったのかなとか勝手に心中で舞い上がってしまった。
 微笑みの攻撃力半端ねぇ。


 


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