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中編
02
 

 右側業務用冷凍庫の横にあるカラーボックスの上に置かれたタイムカードを切り、ジュースサーバーと業務用冷凍庫に挟まれた狭い通路の奥へ上着と荷物を置いて戻ると、裏口の扉が閉まる音を聞いた。



「…おはようございます」
「おはよ、翔くん」
「カワちゃんおはよー」



 仕事用のサンダル(俺と同じクロックス)に履き替え、のそりと事務所に入ってきたのは、無造作に肩甲骨あたりまで伸びた茶髪を一つに結んだ、夜勤仲間の河内翔。
 俺の一個上、24歳。ちなみに同期でお互いに勤務歴三年目だ。



「…なに、今日混んでんの」



 河瀬さん以外に出勤している人が居ないのに気づくと、翔君は無表情のまま聞いてきた。
 翔君は基本無表情であまり喋らない。
 だけどそれなのに可愛がられるのは、無口無表情だけど素直で裏がないからだと思う。



「暇だよ〜。上に三人居りゃ充分でしょ」
「ああ、そう」



 タイムカードを切って奥に引っ込んでいった翔君を見届け、テーブルに寄りかかっていた体に力を入れてフロントに入る。

 受付口は小さくて、そこ以外は曇りガラスで客の顔は見えない。ラブホテルなんてほとんどそうだろう。
 基本的に受付での接客はない。客室はタッチパネルだし、初回の客が利用法を聞いてきた時や常連がその場で充電器とか小物の貸し出し物を要求してきたりする時が主。


 様々な機材が詰まるフロントは夏場はクソ暑い。パソコンデスクトップや小型テレビが数台ずつあって、客室のリアルタイムな状況を映していて、どの階に他の三人が居るか部屋の出入りで分かる。


 客室情報の映るパソコンには、ほとんど客はいない。清掃中がいくつか、入室が十以下、空室半分。
 こりゃあ、夜中は翔君で遊ぶしかないな。


 さっと状況確認を終えて、事務所(俺は居間だと思ってる)に戻ると、非常階段側の冷凍庫に肘をついて壁に貼られたシフト表を怠そうに見る翔君がいた。



「暇だ」
「うん」



 短い会話はそこで終わり、キッチン側の冷蔵庫を開ける。
 ルームサービスに使う、でも家庭的な食材が入っている。
 一番上のドアを開けると、下にはサラダや付け合わせ、モーニングセットなどに使う千切りキャベツがボウルに入っている。暇だから切らなくていいや。
 下の二段を開けても、補充する必要がなさそうだ。


 無駄に多いルームサービスの種類は70種類で、定食屋とカラオケ店のメニューがごちゃ混ぜになった感じ。
 因みにカツカレーがよく出る。



 ぼんやり翔君と二人でシフト表を眺めていると、非常階段から楽しげな声が響いて聞こえてきた。


 


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