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学校に着いて裕生が一番最初に違和を感じたのは、校門前に立っていた見知らぬ若い男性教員の姿だった。こんな人は居ただろうか、担当ではない教員は何人かいるけれど、まったく見覚えがないなんて有り得るのか。
しかし、聡は慣れ親しくその教員に話しかけ「おはよーコウちゃんセンセ」と手を上げたのを見て、裕生はその教員が学校に赴任したばかりではないと知る。
「高坂先生だろクソガキ」
「相変わらず口悪いな」
高坂、という男性教員は大人げない対応ではあるが、それが年頃の高校生にとっては親しみやすいのかもしれない。
担当はなんだろう、と通り過ぎ様に観察していると、後ろから頭を掴まれて裕生は情けない声を上げた。振り返ると高坂がにっこりと笑っている。
「芦屋、挨拶は?」
「お、はよう…ございます…」
「よし。お前どうした、挨拶しないなんて珍しい」
珍しいのにまず強制的に挨拶をさせるのか、とは思ったが、裕生は誤魔化すように笑みを向けて「まだ脳が寝てるんです」と返してから、頭にある手をするりと外した。
そのまま会話を絶ち切るが如く足早に聡の方へと戻ると、聡は笑いながら、やられたなと言った。
「朝からずっとそうだけど、やっぱ具合悪いんじゃね?」
「そんなことない。ただまだちょっと眠いだけ」
「夜更かしでもした?」
「いや…」
自分の下駄箱は迷い無く見つかった。意識しなくとも身体が覚えているのだろう。むしろ意識しない方が出来ることも多そうだな、と裕生は思った。
階段を上がり教室へ向かう廊下で、何人もの生徒が行き交ったり喋ったりしている。見覚えのある顔も居るが、見覚えのない顔もまた何人か見つけた。単に裕生が忘れているだけかもしれないが、濃い時間を過ごした最後のクラスだからか、以外と覚えているものだ。
あの頃、きっと自分が退学した後のクラスはあの話題で持ちきりだっただろう、と思い出すと、裕生は背中に嫌な湿気を感じた。
途端に教室が息苦しい空間に思え、学生鞄を机に置いてからは窓際に移動した。当然のように聡が着いてくる。
今は一人で居たいな、と思うも、裕生は黙って窓から流れ込む風を浴びた。
「風は涼しいな」
「ん…」
嫌な緊張感が蜷局のように裕生の体の中から主張していた。急に心臓が肥大化したかと思うほど、その大きな鼓動が皮膚を突き破ってきそうだった。
その時裕生の背後で、不快感を抱かせる声と言葉が飛んできた。
「まーたお前らべったりしてんの?恋人かよ」
嘲る音に振り返ると、裕生は眉を寄せた。その姿を見るだけで吐きそうだった。
あの時の発端。結果的に自滅したとはいえ、あのからかいが無ければまだ保てていた自分の世界をぶち壊す切っ掛けを作ったクラスメイトが、にやにやと気分の悪くなる笑みを浮かべて立っていた。
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