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 明治時代初頭、一時的に西洋政治や文化の影響などで、男性同性愛の鶏姦(肛門性交)が違法となったが、八年後には旧刑法から消滅している。しかし政治は、この法を再度制定した。これは明治の頃には男色のみが禁止されていたが、改正では同性愛自体が違法化されている。

 トランスジェンダーについては、性同一性障害が確認された場合、十六歳以上の性別適合手術を義務化(指定期間内であれば無償、過ぎると実費)。成人までに従わない場合は百万円以下の罰金、または懲役刑が課せられる。

 伴って養子縁組の条件も厳しくなった。
 その他、それまでLGBT(レズ、ゲイ、バイ、トランスジェンダー)に寛容であった国は手のひらを返して同性愛に差別的な刑法を定めた。同時にアジア唯一の参加であった、国連のLGBTコアグループからもあっさりと抜けた。

 欧米諸国では教義上同性愛を罪とするキリスト教や、十九世紀帝政ドイツの衛生思想の影響で同性愛者の弾圧が行われていたが、日本は迫害も逮捕も歴史に無かったもので、しかし現在ではそれに準ずる(又は更に厳罰化した)刑法改定であった。行為によっては、殺人と同等の罪に問われるケースもある。

 国は躍起になって同性愛関連の活動を弾圧していった。歓楽雑誌も、専用Webページ、選挙立候補、団体、宗教、サークル、音楽、映画、アニメ、漫画、その他関連書籍。
 それらは進学や就職にまで影響を及ぼした。一度でも疑惑が掛けられてしまうと、書類送検の記録が残り、学校や会社はその有無を確認する義務がある。
 一度だけであれば就職や推薦入学が可能であるが、それが二度以上や前科になってしまうと途端に、内定や推薦は白紙、辛うじてアルバイトやパートでの職にはつけるが、同性愛というだけで一般よりも大幅に時給が下がる。
 社会・国民保険の自己負担額、税金支払い額、各民税、年金支払い額も上がり、年金に関しては受給額が下がってしまう。
 公言など出来るわけがなかった。
 安全に平穏に暮らしたければ、ひたすら隠し通し、異性愛者に擬態する事しか方法がないのである。



 ───民を護るべき国に見放された同性愛者、またLGBTの人間たちが生きているこの世界は、まさに地獄のように変わってしまった。
 自らの性傾向が露見した彼らに待つ将来は、まるで奴隷のような生き方をしなければならない。それは正しく四面楚歌であった。

 十五年経った今では当たり前のように根付いた"常識"の中で、彼らは生きている。何のために生まれたのか、という疑問を生涯の中で僅かにも解消出来ずに、ただ泣き寝入るしかなかった。

 親友に恋慕の情を抱いてしまった裕生もまた、その抗えない世の無情さに伏せる事だけが、日常を壊さない方法だった。
 ───だがその均衡もまた脆く崩れ、裕生はその身一つ以外を殆ど全て失い、二十三年の余生を過ごすことになる。




※(明治時代刑法・国連LGBTコアグループ・キリスト教、十九世紀帝政ドイツの衛生思想などについてはWikipedia参照)

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あきゅろす。
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