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「裕の親はいつも仲良しだよな」


 リビングでの事を思い出しているのか、聡が羨まし気に言った。


「聡のとこも仲良いでしょ」
「下らない口喧嘩が多い。昨日なんてテレビのチャンネルで言い合いしてた」
「夫婦より恋人同士みたいでいいじゃん。喧嘩するほど仲が良いって言うし」
「そうだけどさぁ、内容が子供かよって」


 呆れた溜め息を吐き出した聡に、裕生は小さく笑った。


「あ、でもさ、ウチとか裕生ん所みたいな家庭を作りたいなって思うんだよ」
「そっか」


 赤信号で立ち止まった聡の隣で、流れる車を見つめる裕生の表情は穏やかな笑みが張り付いている。


「な、結婚式は一緒にやろうぜ。互いが仲人でさ、それが楽しかったって親も言ってたし。んで、俺らも家族ぐるみで旅行したり、バーベキューしたりとか、楽しそうじゃん」


 将来の希望を語る聡の目は輝き、まだ見ぬ先の予定を次々と上げていく。


「あ、でも俺の嫁と浮気すんのは無しな」
「聡こそ、僕のお嫁さん取らないでよね」
「取らねぇよ。海が見える式場がいいなあ」
「……結婚式、一緒にできなかったらどうする?」


 青信号になると、小学生の集団が高い声で楽しげに横を駆けていった。その背を見送りながら裕生が尋ねると、聡は迷う素振りもなく言った。


「そんときはそんとき。互いに仲人するし、同じ式場でやればいいじゃん」
「聡はロマンチスト」
「うっせ、良いだろ別に」
「うん、そうだね」


 それから聡は学校に着くまでのわずかな時間で、未来の生活の細かい想像を語り、裕生は笑いながら頷いた。
 夢見る親友の輝かしい話を、裕生は叶えてやりたいと確かに思った。しかし同時に酷く息苦しかった。
 近くに居られるならなんでもいい。そう強固な意思を作れるほど、裕生はまだ自分の自制心を確率出来てはいなかった。

 葛藤は裕生を苦しめ、日常に気を張るばかりで家にいても気が抜けなかった。
 芦屋裕生は、藤本聡に恋慕の情を持っている。男女が前提にあるその心は、誰にも晒すことは出来ない。
 それが知れてしまえば咎めを受ける事はよく分かっていた。世界は同性愛者を重罪人として扱う。同性に恋慕の想いを告げる行為は法に触れ、国の裁きを受けねばならなくなる。



 ───十五年ほど前、悪化する一方の少子化対策について政府は、これまで国で明示的に禁止していなかった、同性愛に関連した個々の行為や宗教・その他団体活動等を"全面的に"禁止した。

 子を成せない同性愛は国にとっては負担にしかならないと、特定の同性との出会いの場、直接的には禁止されていなかった同性間の売春、更にネットワーク上でも厳しい監視が始まり、発覚すると強制的に処罰対象となり店は潰されネットでの発言は規制された。
 街中でそれと思わしき二人は職務質問をされるし、僅かでも疑惑があればプライベートまで調査されてしまう。
 男性同士は比較的分かりやすいが、女性同士になると純粋な友人間でも距離が近い為、法改正後は国民からの政府へ非難が殺到した。示威運動も活発化し、一時は世間が混沌化したほどだった。


 


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