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 微かなアラームの高音で裕生は目蓋を上げた。閉め切ったカーテンの上部や布に透けた日光が、部屋の中を薄暗く見せている。
 眠気眼を幾度か瞬いて、視界より反対側から聞こえる止まない音を消そうと頭を擡(もた)げ、部屋の壁に掛けてある時計を見ると七時を少し過ぎたあたりを指していた。
 遅刻ではないが、アラームの起動設定時間は六時半だった。スヌーズ機能で目覚めたらしい。
 頭が枕に落ち、重たい目蓋がゆっくりと下がっていくと、裕生の呼吸は深くなった。


 それから暫くしてパッと目を開いた裕生は同時に横を向いていた体を起こし、焦った様子で壁掛け時計を見た。一度起きてから二十分が経っていた。


「やばっ」


 一定時間を過ぎたアラームは、二度寝の世話まではしてくれない。
 慌ただしく制服に着替えた裕生は、"朱色"のカバーが掛かった端末と鞄を引っ掴み、忙しなく部屋を出た。
 いつもは遅くても七時に起こしに来るはずの聡も母も来なかったということは、あの二人はリビングで父を含めてお話に夢中なのだろう。
 荒い足音を立てながら階段を下りて右側のリビングの扉を開けると、三人分の笑い声が聞こえてきた。


「───あ、裕生、遅かったわね」
「おはよう…」


 ダイニングテーブルの空いた席に座った裕生は、にやにやしている隣の聡を睨んだ。母が入れたのだろう、手にはカフェラテの入ったマグカップを持っている。
 たまにやるのだが、聡は今朝、わざと部屋に来なかったのだ。


「遅くまでゲームしてたのか?」


 向かい側にいた父、芦屋幹生(みきお)が呆れた笑みで言った。


「途中でセーブしたんだけど、もうすぐ終わりそうでついね」


 このところ裕生は最近買ったばかりのRPGゲームを進めていたが、終わりが近くなると盛り上がって、つい寝る時間が遅くなっていた。
 しかし芦屋はそれを咎めるわけでもなく、「もう終わるのか」と感心したように言った。


「セーブデータはいくつか作れるだろう」
「うん。父さんやるの?」
「たまにはゲームもしたくなるさ」
「じゃあクリアしたら貸すね」
「あら、私とのお話じゃご不満?」


 母の冴子が悪戯っぽく笑うと、芦屋は困ったように「まさか」と肩を上げる。


「冴子もやってみたらいい」
「私、やるのは苦手よ」
「なあに、すぐ慣れるさ」


 あっという間に二人は向かい側の裕生と聡など眼中に無くなったように話始めたため、相変わらず仲の宜しいことで、と思いながら裕生は朝食を片付けた。


「───じゃ、いってきます」
「いってきまーす」
「気を付けてね」


 仲良くお喋りする両親が当たり前な裕生は、気にすること無く聡と一緒に玄関を出て通学路を進んだ。



 


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あきゅろす。
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