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 煌煌とした施設内では家族連れと学生が往来している。小学生も楽しめるようで、目の前を通り過ぎた少数の小さな身体を見送り、裕生は聡が行く後を追った。


「人が多い…」
「出来てから3年経っても多いよなあ」
「……3年…」
「早いよな」


 裕生の思考は益々混乱していた。
 聡と共に施設内で一際賑わうフードコートへ着くと、物珍しさに周りを見渡していた裕生は視界に入った光景に自分の目を疑い、足を止めた。


「裕生?」
「……ねえ、あの人たちって、」


 問い掛けに答えない裕生が放心状態で凝視する先へ目を向けた聡は、何の躊躇いも声色の変化もなく言った。


「ああ、互いしか見えてないんだろうなあ」
「……」


 裕生が聡を見上げると、聡はまるで梅に鴬を眺めているかのような微笑ましいものを見る目をしていた。そこに嫌悪感はまるでなく、周りも彼らを気にしていない。

 裕生が見た先では、男が二人、向き合って壁に寄り掛かりながら互いの目を見つめ囁き合い、どこからどう見ても恋人の雰囲気を漂わせていた。
 意識すれば途端に視界には沢山入ってくる。裕生がその場から周囲に目を向ければ、女同士でも男同士でも、密着して手を繋いで歩き、ひとつの食べ物を分け合ったりしている二人組が当たり前にそこにいる。
 女同士ならば過去の記憶の中でも仲良しなだけで意識されないが、男同士ではあってはならない光景のはずだった。
 しかしそれを誰も咎めない。男女の恋人たちと同じように存在を認知している。

 裕生は無意識のうちに口を開いていた。


「変じゃ、ないの」
「は?」
「同性は普通なの」


 裕生の弱々しい言葉に、しかし聡は呆然とその顔を眺めてから当然のように言った。


「今さらじゃね? 同性愛の迫害があったのは、ウチのじいちゃんのじいちゃんくらい前までだって聞いたことはあるけど」
「───…そう、だっけ」
「そう。この間うちの姉ちゃん彼女出来たらしくてさあ、しかも読者モデルで超可愛いんだよ。まじ勿体ねぇよな」
「……聡は、男と付き合ったことあるの」
「え?お前も知ってるじゃん。あー…でも、去年別れたし長く続かなかったから覚えてないか」


 裕生は胃から迫り上げてくる吐き気と動悸を感じ、手の震えを誤魔化すように握り締めて目を閉じた。
 一体自分達が何の話をしているのかも不明瞭に感じながら、深く呼吸を繰り返して目を開くと視界が歪んで見える。


「っ裕生、顔色悪いぞ」


 焦りを滲ませる聡の声は聞き取れたが、周囲のざわめきと頭の中の叫喚が思考の邪魔をして煩わしかった。


「……ごめん、やっぱり具合良くないみたい」
「風邪か?とにかく帰ろう、歩ける?」
「うん、ごめん」
「謝るなよ。朝から具合悪そうだったのに寄り道したの俺なんだから」


 聡に手を引かれて無理矢理にも足を踏み出しながら、裕生は俯いて歩いた。
 周りを見たくなかった。これ以上の混乱は無いかもしれないけれど、それでも裕生は足掻くように片手で耳を塞ぎ、足元だけを見つめるしかなかった。


 

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