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短編集2(2020~)
雨露の心中
 


 夏は茹だる暑さがいつ終るのかと毎日変化する天気予報と意味のない睨めっこをして、不快指数を少しでも下げようと体を冷しすぎてバテる。
 冬は指先の凍える寒さの終わりを待ちわびながら布団を被り、雨の日は引きこもりになりたい願望が五倍くらい上がる。
 春は強風ばかりだし何かと忙しい。毎日を穏やかに過ごすなら秋が最も過ごしやすいのかもしれない。



『───全国の平均気温です───は35度を越え、高いところで38度に届く予想です。最低気温は───ブッ』


「……あつい」


 快適温度の保たれた部屋から一歩外に出ると、湿気を含んだ重たい空気が肺を満たす。表を数歩進んだだけで額から首から汗が滲み出て、高熱の鉄板を翳したような照りつけの陽射しに目が眩んだ。

 人の心というものは、そんな些細な環境の元で朝と夜の間までにあっさりと変化していく。
 昨晩喧嘩別れした恋人に対する複雑な気持ちも、翌日になれば普段と変わらないアラームで目覚めて支度を始める。


『───恋愛感情の好きなのかどうか分からない』


 ここ二年間で付き合った三人の恋人全員に言われてきた。彼らの言葉通りに、たぶんそんなに好きではなかったのかもしれない。彼らが求めるものを俺は持っていないのだ。
 熱に浮かされる───という他人の恋愛話を、いつも小説を読んでいるような非現実的な感覚で聞いていた。


 お前は恋をした事が無いのか、と昨晩は言われた。
 恋人になる全員があんたと同じレベルだと思ってるのか、と返したら、少なくとも好意が分かるくらいの共感は出来るものだと呆れられた。
 なんで付き合ったのかと問われて、嫌いじゃないからなんて節操が無いだろうが、プラトニックも成立しない俺の感覚は、もしかしたら愛以前に本当に恋をしていないのかもしれない。
 五年前の冷たい雨が降り続いていたあの日に、「それ」を置いて来てしまったのだ。
 ちゃんと次に行けよ、なんて言っていたその声だけを、ぼんやりと思い出した。


 これからあと何人と付き合っても、何回セックスをしても、胸が締め付けられるだとか寂しくて苦しいだとか、辛いとか好きすぎてどうのとか、人伝の恋愛感情が織り成す日々は訪れる気がしない。

 浮気されなかっただけマシかとも考えたが、された所で俺と関係を続ける理由はセックスくらいだから、そもそも他に好意が向いたなら別れた方が相手の為なので、結果的に浮気までは至らないのだ。
 なんて都合の好い性欲処理人間。
 感情の起伏が無いわけではないんだけどな。


 

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あきゅろす。
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