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03
 

 生温い水分。頬が舐められ、鼻を唇で挟まれ、顎を舐められ、耳をまるで啄むように舐められ、甘噛みされ、その後ろを舐められ、耳たぶを噛まれ、首筋を伝っていく舌が、跡を残すように唾液で線を描く。

 くすぐったさと、無意識に跳ねる肩と、ぞくりと伝う何かがごちゃ混ぜにやってきては、発生源は気紛れでその反応を楽しんでる。


 部屋には音楽が流れていた。
 街中で耳にするような流行りの曲から、聞いたことのない曲まで、アップテンポだったりゆっくりだったり寂しそうだったり楽しそうだったり。

 音楽のほとんどは恋愛系だと思っている。自分と誰か。誰かと誰か。男と女。なにをするにも、どんな条件でも、男と女。初めから知っていたかのようにそれが当たり前にインプットされている、恋愛。

 昨日別れた彼女の顔がチラリと脳裏を過っては、ただ掠めるだけのその存在に自分にとってその程度だったのかもしれないと自分なりに吹っ切る事が出来る気がした。


 ただ、そんな思考を遮るように飽きずに舌は体を舐める。時々噛む。



「……っ、は、」
「どうしたの、体の力が抜けてるよ?」


 黒川は鎖骨を舐めるのをやめ、首をかしげて見上げてきた。
 両の腕は後ろで体を支えていて、脚は行き場を無くすように曲げたり伸ばしたりをさっきから繰り返してて踵が若干摩擦熱を発してる。

 そんな俺の腕と腰あたりに腕を差し込み手をついて、膝立ちにまるで迫ってるような体勢の黒川の上目がなんだか熱っぽくてイヤだ。



 そんな、吸い込まれそうな熱を発しないでほしい。
 自分でも分かるほどに目は揺れてるし、間近にあるその唇に、キスをしてしまいそうでイヤだ。


 自分が自分でなくなっていくようでイヤだ。
 いつの間にか疼いてる体を知らないフリするのが、地獄のような環境だ。
 さっきから腰がビリビリしてる。



「───…も、かえる」
「なんで」


 死にたくなるくらい、恥ずかしいことしそうだから。

 なんて言えるかバカ野郎!


 

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