02
いつぞや昔の人は言うんだ。
こんな傷は舐めときゃ治るんだ、と。
でもちょっと待てよ。俺の傷口は眼に見えないもので、精神的なもんで、そもそも人間の舌には舐めて治せるようなスバラシイ遠隔操作的なもんないわけで。
だからおかしいんだよ。
イライラするジクジクする化膿しそうな傷口に入り込むように抉るように、なのに鳥肌がたつほど艶かしく、柔らかなその舌がもたらす何かがあることは。
「…っ、くすぐった…」
「ん、じっとしてなよ」
「いぬ、か…よ」
「鳴いとく?」
「やめろ」
高校生で独り暮らしをしているなんてことは、なんとなく見た目や雰囲気でイメージが出来てた。
こいつなら好き放題色んなヤツを連れ込んでいるに違いない。そんな予想まで出来るほど、イメージは根付くもので。
なのにヤツは、黒川水樹というイケメンは、部屋に誰も連れ込んだことがないという。
嘘かもしれない。
同じような言葉を同じように色んなヤツらに言っているのかもしれない。
そもそもこんな人間が俺みたいなそこら辺にいるただの凡人に構ったりするはずがないのに、たった一日の、つい昨日の失恋してすぐの駅前で出逢ったそれだけで。
同級生だったとか知ってたのかよ、みたいな感じだったのに。
愚痴聞くよ、なんて言うから。
優しい笑顔で手を差し出したから。
その顔が、作り物だったらどうしようかとか考えずに、ただ本能に従って。
モノトーンの落ち着いた部屋は、綺麗に片付いていて。
部屋が2つとキッチン、バストイレ別とか家賃それなりにするんじゃないかとか。
なんでそんな部屋の居間みたいな方のラグの上で丸い顔文字の書かれたクッション抱えて、黒川水樹に頬を舐められているんだ。
とにかく柔らかいビーズクッションが気持ちいい。
「こんな…で、治るの、かよ」
「なおるかもよ」
「……」
べろり、と横顎を舐められた。
不思議な事に、不快感がない。どういうことなのか。
なにやってんだ俺たちは。
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