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 ───半年前、上司の昇進祝いで行われた飲み会の帰りに自宅マンション脇で見つけた段ボールの中にスイは居た。
 その日はかなり飲まされて酔いが回っていたのもあり、興味本意で触れてみたら腕に絡み付いて来た。そして丸みのある先端で頬を必死に、けれど優しく突く様がキスのようで、自分の好きなアクアマリンに似た色をしていたスイに対して気味の悪さよりも愛着のようなものが湧いた。

 その時は相当酔っていた。頭がふわふわしていて、意識はあったが恐れなどが無くて、普段は隠れている己の好奇心の強さが際立って表に出ていたのだろう。
 なんの抵抗もなくそのままスイを連れ帰ったはいいが眠気に負けて、スーツのままソファに倒れ込み少し眠ってしまった。

 その後違和感で目が覚めると、最初に見た時とは全く違う形と大きさをしたスイに包まれていて、全身余す所なく愛撫され攻め立てられ、前も後ろも口の中ですら…そうしてあっさりとその快楽の渦に飲み込まれた。
 人生で経験した事の無いそれは、日頃から満たされていないと感じていた己の心身を溢れるほどに埋めつくし、一度味わってしまった快楽を忘れられるわけもなく、半年経った今では愛玩ペットのような恋人のような存在になっている。
 触手と呼ぶのは憚られたので、水色だからスイという安易な名前を提示したらスイは頬に擦り寄ってくれたから決定した名前だった。感情もあるのか、気に入らなければ割りと強めに突くか軽く叩かれるので分かりやすい。



「スイもお風呂入る?」


 簡単に夕食を済ませて丸くなっていたスイに問い掛けると、ゆるゆると腕に巻き付いたのでそのまま浴室に向かった。
 スイに関して謎な事は多い。何故マンションの脇に居たのか、捨てられたのか、どこから来たのか、どうやって生まれたのか、感情や言語理解能力、変形、そして───


「っ、ふ…ぅん、」


 粗方洗い終えて浴槽に浸かっていると、スイが唇を撫でて来てキスしてくる。口を開くと舌のように変形したスイがぬるりと入り込んで、ソレを舐め上げれば舌を撫でて上顎を擽られる。
 気持ち良い。ぞくぞくする。
 今までしてきたキスとは比べ物にならない。湯船で程よく熱を持ったスイは柔らかくて、止まらなくなる。


「ん、逆上せる…」


 頭がぼんやりとして来た。
 スイが首に垂れ下がったので湯船から上がり、火照る体の水気をタオルで拭いて下半身に巻き付けてからそのまま髪を乾かして寝室に入った。

 退社の少し前から疼いて仕方ない体は我慢の限界だった。
 ぼすん、とベッドに倒れ込むと、スイが変形して膜のように俺を包み込んだ。

 歪んだ膜の向こう側にある壁掛けの時計は、秒針が止まっているように見える。

 スイに対して最も不思議に思う謎はこれだった。この膜の中に居ると、膜の向こう側と時間経過の早さが変わるのだ。
 外側の1秒は内側の1分。つまりこっちで60分を過ごしても、膜の外側に出ると1分しか経過していない。

 だから時間を気にしなくてもくたくたになって気絶する程の戯れをしても、外側では1時間経っていなかった事すらある。


 


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