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良くも悪くもただ猛進【絶倫変態×腐男子】
 


 “そいつ”の第一印象は、変態。

 なんでかって?
 見た目は普通。可も不可もなく、ネクラでもなければお笑い要員の人気者でもなく、言うなればその中間。
 付き合う友達は、多くも少なくもなく、友達百人はいないけど半分くらいはいるんじゃないかな、くらい。
 成績も、定期テストはいつも真ん中よりちょっと上。運動神経は、調子が良いと成功して悪いと失敗するし。
 全体的な一般でいう平均の、上を100とするなら、45〜65をフラフラしているような、そんなやつ───。


 だけどこれは後付けで知った、所謂これはあいつの“仮面”みたいなもんだった。

 実際、仮面の下は小綺麗な眉目に当たり障りのない人間関係にはきっちり線引きをして、運動神経も頭も良くて、わざわざ平均値を測ってはソレで遊んでいる。


 だから、初対面で仮面を取っ払ったソレを見た俺の、ヤツの第一印象は、ズバリ。








「おっはー、って死語かな。ね、死語?おはよ、ってクールに行くべきかなココ?あ、でもお兄さんには関係ないか。んじゃ改めて、おっはー」
「う…っぜえ!」



 ずばり、変態。
 わざわざ『朝の挨拶』の言葉だけ声色も雰囲気も変えて言ってくるせいで、一部分にだけ鳥肌。ぞわっと。

 つかなんでこいつ朝からこんなハイテンションなんだよ。え?これが普通?じゃあお前のハイはこれ以上なわけ?は?



「溜めて言わないでよー、でもそんな冷めてるとこも、こっちに目も向けずに趣味の観察を続行しながら突っ込むとこも、好きだよ」




 好きだよ、の部分だけ、嫌に艶やかで低温で、またぞわり。



「ここの空き教室って裏庭見渡せるから最適だよね、だよね。知ってる分かってるよお兄さんの行きそうな場所とかがっつりしっかり分かってるよ」
「……」



 無視。無視だ。無視に限る。

 この喋りもそうだが、こいつは俺と衝撃的な初対面を果たした次の日から、変えても変えても変えても変えても居場所を探しあててくる。
 迷った様子もなく、焦った風でもなく、涼しげな顔で毎日毎日毎日現れる。


 それも、俺が趣味である観察をする昼休みと放課後と休日の暇な時間に限って。
 暇な時間っつっても観察という重要な用事があるんだが、やることやって時間が出来たら来る、そんな感じなのに。


 なのに、そんな休日ですら、こいつは現れる。
 飄々と、涼しげに、その実その双眼に熱を宿して。



「で、今日は誰が誰と戯れてるの?同じことしようか。あ、いや同じじゃつまんないから先読みして一歩前を行ってみようか、ねえ、そこから目をそらさないで良いから」



 ね、お兄さん。と、やつは笑う。


 こいつは、同学年でありながら、俺を『お兄さん』と呼ぶ。
 兄、というニュアンスではなく、名前も知らない男性に向けるそれで。
 でもこいつは俺の名前を知っている。
 だけど呼ばない。普段は、決して。



 じゃあどんな時かって?



 窓の縁に肘をつき、双眼鏡を覗き込んでいたら、背中が温もりに包まれる。
 やめたい。逃げたい。今すぐ視線の先で人目を避けて愛を囁きあっているであろう二人の観察を止めて逃げたい。切実。


 耳の裏側で、すん、と鼻で息を吸う音が聞こえ、手に力が入る。



「───かわいい」



 逃 げ た い !


 嘆くばかりで実行出来ないのは過去の経験だ。
 逃げた所で翌日例によって出くわしその場で、自分のネクタイやら何やらで縛られ羞恥的なことをされるんだ。
 何度も何度も。
 その場で逃げられなかった時は、とてつもない甘さで愛でられるだけ。

 羞恥プレイを強いられるくらいなら、と俺の本能は甘さを選んだ。


 だって、だって。






「ああ、かわいい。あきらめて甘受けして早く終われって思うことも無くなってきて、抵抗もしないで我慢して真っ赤になって震えて、かわいいかわいい堪らない。───冬真」



 耳元で、低く、甘く、躊躇いなく吐き出された、名前。俺の、名前。

 息を飲むのが分かったのか、くすりと笑われる。



「……っ、」
「力が入ってるなぁ」



 前に回された腕は、下腹部を締める。
 緩く、けれど離れないようにしっかりと、指を絡めて。


 

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あきゅろす。
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