06
「嫉妬ですか」
「わりィかよ」
……いえ、特には。
そんなはっきりきっぱり認めなくても。曖昧なのは俺だけど。
蓮さんは溜め息ついた後、寝る、なんて言いつつ部屋に戻ってった。
ごろりとドアに背を向けてた体制に戻って、抱きまくらに顔を埋めてみる。
電気は点いたまま。ドアも開いたまま。
今は電気を消す気もドアを閉める気もない。
「んぅー…」
顔を埋めたまま唸ったら、くぐもった声が耳に届く。
どうでもいい事をしてるなあ、って思うけど、このどうでもいい事がたまにやりたくなるんだよ。
何を待ってるんだろう。
千鳥からの返事?待ってるっちゃ待ってる。
ぐだぐだ考えてたら携帯が震えた。
近くに置いといたけど、ゆっくり顔を上げて携帯を見れば着信。
「……もひもひ」
『寝てたか?』
相手の名前を見てなかったよ。
ふわりと口元が緩む。
「んーん、起きてた」
『そうか。…で、あのメールは?』
「デートのお誘い!」
『二人っきりじゃないのが気に入らないが、まあ仕方ない』
「犬の散歩しながらデートなんてよくある話じゃーん」
気に入らないとか言いながら、不機嫌な声じゃない。
千鳥ってば優しいんだから。文化祭デートなのに犬の散歩ついでとかどんだけ。
「前日くらいにまた連絡するよ」
『頻繁にお前と連絡取れるならいつでもいいぜ』
「なんだそれー」
いい男ですよ、まじで。
俺にだけこういう甘い事言うんだって言われた事があったな、素敵過ぎるよ千鳥。
包み隠さずさらっと言ってのけちゃう。
それがなんとも違和感なく。
甘い台詞が臭くならないんだから、とんでもない男前だ。
「千世には言うの?」
『言わねぇよ、めんどい』
「えー」
ちょ、めんどいから言わんのかい。
そういや俺の『面倒臭い』って言い方、千鳥のクセがうつったんだよな。
めんどいって言っちゃう。
なんか可愛いよね、なんでも出来ちゃう男前が砕けた言い方とか。
ゆるゆるになった口元が締まらないなー。なんでもない事に幸せを感じる。
『連絡待ってる』
「うん、仕事お疲れ様。おやすみ」
『ありがと。おやすみ睦月』
ちゅっ、なんてリップ音出して、くすりと笑う声を聞いた後に通話を終えて携帯を閉じる。
ふわふわだ。眠れそう。
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