02
───彼らから見れば俺は、ほかに身内がいない本当の孤独者になったようだ。
「お茶しかなかった、一息つこう」
「いえ、いただきます」
署内に入り通されたのは、小さめの応接室みたいな場所だった。
テーブルを挟んでソファに座り、清水さんと向かい合う形になる。ちなみに新人山田くんは報告に行ったらしい。
出されたお茶を一口。
ひんやりとした液体が、食道を通り空っぽの胃袋へと流れるのが分かる。
「これからまた大変だな、時任くん」
「名前でも良いですよ、清水さんなら。それと、これくらいで大変だとは思いません」
むしろ体が軽くなった感じすらしてる。
そうか、と苦笑いした清水さんは缶コーヒーを飲んでいる。
ぴりぴりとした雰囲気じゃなくて、どこか柔らかい雰囲気に包まれた室内が心地好い。めんどくない。
「俺はな、結構長年少年課にいるが、今まで見てきた奴らより、随分落ち着いてるよな」
清水さんて少年課だったんだ。意外だ。
予想外の事実にびっくりしながら、清水さんの言葉に苦笑する。
「冷めてるんじゃないですかね。良く言われるんです。
なんか、興味がなくて。……誰がどうなろうが自分がどんな状況に立たされようが、俺は俺だから。それに、」
言葉を途切り、お茶を一口。
コップを持っていたから体温で若干温い。でもそれなりにうまい。
清水さんは無言で俺を見ている。
「同じ歳の他人を見て、若いなあ、なんて思ったりするし。
小さい時から、他人にたいして情が持てないんですよ。信じようが疑おうが、俺の行動で俺を嫌おうが、それすらもどうでもいい。
でも愛情は知っています。亡くなった母親は俺を愛してくれたから。受けることも与えることも出来る。言葉で説明するのは難しいんですけど」
楽しい事は楽しい。
痛いものは痛い。
寂しい時は寂しい。
悲しい時は悲しい。
嬉しい時は嬉しい。
普通の感覚はそれなりに持ち合わせているし、臨機応変にだってなれる。けど、他人を心から心配したり同情したりする事が出来ない。
心配されたり同情されるのはうざったいと思っている。連絡とかは嬉しいけど。
俺はただ、それなりに一般常識を持ち合わた上で自分を変えないだけだ。
しん、と静まる室内で、清水さんが伏せていた視線を上げた。真剣かどうかは知らないが、そう見える視線と目を合わせる。
「簡単に言えば、無慈悲ってことになるな」
「そうなるんですかね」
にこりと笑うと、ふむ、と清水さんはちょうどいい長さに伸びた髭を触る。
そういや、テーブルのすみにあるタバコに手をつけてないけど吸わなくて平気なのかな。
喫煙者の気持ちは知らないが、なんとなくそんなことを思った。
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