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「……おい、あれ」
「…え?」
「うそ、マジ?」
「すげぇ、初めて見た」
「え、あの人が?」
「初めて生で見た」



 口々に奥の方から聞こえるのは、俺のことなんだろうな。
 てか生って。生じゃなかったらなにで俺を見たんだコラ。ナマモノですけど。


 雰囲気が変わった店内に、目の前の少し離れた席に座ってる【狂犬】がのっそりと顔を上げて周りを見渡すように頭を動かした後、俺のとこで止まる。

 フリーズしてるけど。
 そんなに衝撃的?



「……ッ【黒猫】?」



 口を少し開けたまま固まってた【狂犬】がぽつりと呟いた。
 ゆっくりと、自分の口端が上がるのが分かる。いやあ、困った困った。



「俺以外に誰がいるの?」
「……いや、」



 カウンターの向かいに立ってる焔紀がめちゃくちゃ笑ってますけど。
 堪えきれてないよ、オニイチャン。
 まだ唖然としてる【狂犬】から視線をそらして、焔紀を見る。



「千鳥は?」
「まだ来てねーよ」



 にやにやしたまま返された。
 千鳥は二代目総長だ。本名は朝比奈千鳥。ついでにうちのわんこの保護者です。

 元気にしてるかなあ。
 来てないってことは千世もまだか。
 千鳥には言っといたけど、俺が来ること知ってんのかな。



「犬を二年もほったらかしにした代償はすげぇんだろーなぁ」
「……そうだね」



 …うん、分かってるよ。
 もしかしたら泊まりかも、なんて一応蓮さんには伝えといたから千鳥の家に行く事になっても大丈夫なのさ。

 会えなかった分甘やかしてやんないと。変わってなきゃね。

 千鳥は変わらないって言ってたけど、やっぱり本人目の前にしなきゃ分からないと思うんだ。

 店内にざわめきが戻ったけど、さっきとは違うざわめき。
 噂の【黒猫】がいるから、って焔紀に言われたけどそんな印象強い事してないんだよな。
 歴代総長と仲良しだから?
 単純だなあ。



「…お前、なんで来なかったんだ、二年も」



 ぼんやり考えてたら【狂犬】の声がして、視線を向ける。
 そんながっつり見ないでちょーだい。
 声出して笑いそうだから。
 【四神】なんて見向きもしてないよ。いちゃついてるよ、あのバカップル二組。


 


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