06
周囲が無言の中、それはそれは深い溜め息を吐き出した。
長男を殺したのは事実だ。
それが正当防衛だとしても。
それを知っているのは、当事者である俺と死んだ長男だけ。
「……、えと、とにかく、現場をなんとかしないと、先には、進めないから、えと、」
相変わらず噛み噛みな若い警察官の視線は俺の左腕で、ダンディーな警察官は目を閉じて何かを考え込んでいるようだった。
───八つ当たりが当たり前の長男。
理不尽な説教をし始める長男。
小さい頃から、自分が父に頼まれていた家事を俺に押し付けて帰宅した父に真っ先に駆け寄り、自分がやったと言うそいつ。
俺に説教をして、その説教内容を自分でもやっている。
跡の残らない心配させたいだけのような手首の少し上に付ける切り傷。大袈裟な包帯。
『お兄ちゃん』と言え、と言われて、それを守った覚えはない。
今まで言った事がないと言われた事がある。会話も鬱陶しく、顔も見る事も、存在すら嫌だと思っている。
だけど。
俺は、見せなければ分からない場所に傷痕が消えない程切りつづけても、薬を多量服用して嘔吐しても、暴食しても、不眠症でも、頭痛も胃痛も治らなくても痛みを顔に出す事もなく、すべてを隠した。
父親は、長男にしか興味がないような態度だったから。
何年も、何年も、滑稽なほど繰り返した。家出だってした。
その時は幼なじみのお兄さんたちが唯一の救いだった。今は連絡してないけど。
「───ということになるが、良いかな?」
聞こえてきた低いアルトで、また意識がどこかに行っていた事を自覚した。
声のした方を見て困ったように笑い、ダンディーな警察官に向けて人差し指を立ててもう一度、と言ったら何故か苦笑いを返された。
時任睦月、18歳、男。
ある夏の日の夜、大嫌いな身内に殺されかけました。
そして上辺だけの家族を失いました。
悲しくもない、なんとも思わない。ただ何かがするりと落ちて、軽くなった気がした。
そしてそれが始まりの鐘みたいに、日々が変化していく事なんて知るはずもなかった。
これからどうなることやら。
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