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01
 



「甘い匂いに誘われちゃいました。」
 ───色んな意味で。








「……暇だ」



 あの良く分からない拉致事件から数日。
 何事もなく過ぎて、また暇で平和な時間に戻る。
 意外にも蓮さんは何も聞いてこなかった。


 …本っ当に、退屈は俺を殺せると思うよ。

 午後になりお客さんはゼロ。
 無人だよ、無人。

 洗い物も掃除も終わっちゃったし相変わらず蓮さんは2階に引きこもってるし、朔也先輩はまた買い出しという名のパシリに使われてるし。
 なんなの?俺を孤独死させたいのか?
 なんだこのバイト。超ヒマ。
 ケーキでも作ろっかな。
 暇潰し暇潰し。
 作ってる内に朔也先輩帰って来そうだし。よし。はい決定!


 この喫茶店にメニューはあるけど、時々気まぐれで甘味が増えたりする。
 数量限定ですけど。
 ケーキで思い出したけど、最近あの甘党男子来てないなあ。


 以前、ていうか何ヶ月か前に突然来店した男子高校生を思い出す。
 一年下の凄い甘党で、確か甘い匂いに誘われて来たとか言われた時にはびっくりどっきり。
 そんなことあるんだ、みたいな。


 その時は丁度、蓮さんが試作品製作してたんだよなあ。で、その子に味見させたんだ、あの人。
 そしたらすんごい喜んで、嬉しそうに、本当に美味しそうに食べてた。
 素直でいい子なんだよな。

 そっから時々店に来るようになったんだけど、大抵味見役。
 甘い匂いに誘われて来る事が多いから。
 あの時確か蓮さんに名前呼び強制されてたけど、店長って突き通してたなあ。


 最後に見たのいつだろ。
 今9月だから、最初に来たのは4月くらいかな。

 さくらの何かも作ってたはずだから。
 あれは美味しかった。そしたら、最後は7月くらいかな。
 夏休み満喫したんだろうな。
 学生の楽しみのひとつだし。多分。


 そんな甘党男子高校生を思い出しながら、個人的に好きなモンブランを作りながらじっくり時間を潰してた。



「…ふは、」



 額に汗が滲んで、手首で拭う。
 まだまだ暑さは和らがないな。
 イイ感じじゃね?モンブラン上出来かも。


 - ちりん



「…っいらっしゃいませー」



 イイ感じの出来に納得してすぐ、鈴の音で咄嗟に声を出して顔を上げれば、



「…あんれ、」
「……お久しぶりです、来ちゃいました」



 あんれまあ、本当に久しぶりだ。


 


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あきゅろす。
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