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05
 



 ───夢があった。
 夢があった、と思う。

 どんな理由かは知らないし興味もないが、警察官になりたくて一所懸命勉強して、夢を叶えたくて。悔しくても辛くても、投げ出したくなっても、諦めたくなくて。
 そして、警察官になれた。
 困っている人を助けて、事件現場に駆け付けて、お礼を言われてやり甲斐を感じて。

 市民の、あんぜんを、守りたくて。

 どこかで困っている、助けを求めている人が沢山いて。目の前で困っている人もいて。自分ではどうしようもない事実を突き付けられて。


 警察官も人間。
 感情を持った人間だ。
 だからこそ、目の前で困っている人間を助けるべきか起こっている状況処理や解消が先か。
 悩む事もあって当然。
 だって自分の力ではどうしようもないのだから。養う事なんて出来ないと。
 正義感だけが先走って、突き付けられた現実に戸惑ってしまう。
 どうしよう。
 どうしたらいいのだろう。
 ───とりあえず、現場の状況を進めて、事情を整理して、それから、それから。
あなたは、どうするんですか?」



 相槌すら打てない程に、しき詰めた言葉。感情もなくなった表情。

 あ、敬語じゃない。大丈夫かな、まあいっか。


 なんて思って二人の警察官を見たら、二人とも見事に固まっていました。





「……っ、あの、」
「俺は、」


 止まった相手の声に、返事とは取れない言葉を返す。
 じっと見てくる目は、まだ挙動不審だ。


「俺は、まだ18歳です。たかが18年生きた人間で、出来ることは限られてる。
はいどうぞと一人で生活出来るほど出来た人間じゃない。
身内に殺されかけて、そりゃあ殺意が抱くくらいに嫌いな人間だったけど。殺意とか苛立ちとか、そういうのは自分の腕にたたき付けた。一時の安定だけが救いだった」



 そこで一息。



「もし疑うとしたら、二人を、いま倒れている場所で殺害した後、アリバイを作るのために風呂に入り身体を洗い、洗面所を水浸しにして、着替えて、電話をかけて手の平を切り、ソファの後ろに虚ろな表情をして立ち尽くす。
けど、そうなったとしても今の俺は困らないんで。
何も出来ない、自由のない場所に行って、食事も行動も制限された場所なんて、凄く助かる。むしろそうなりたいって思ってた。
仕事は好き。けど、自由の中で生活するのが面倒臭い。
ねえ、俺はどうしたらいいの?」



 ふっと息を吐く。
 テレビが笑っている。
 無線の音が聞こえる。
 俺の声が途切れる。

 けれど、誰も口を開かなかった。検視官でさえも固まっている気がした。


 


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