15
一緒に住んでいる蓮からすれば寝過ごしてるのかと思ったが、出ていく前に声をかけたら起きていたし今から行くというようなメールも来ていた。
しかし現在、出勤していない。
ぐっと何かが突っ掛かる不快感を拭えず、蓮は向かいで電話をかけている神楽を見る。
耳に携帯を当てている神楽の顔が夜の世界で語られる【狂犬】になりつつあるのを興味なさ気に見ながら、ふと神楽の表情に変化を見る。
「ッもしもし、睦月!お前今どこに、」
ぴたり、と神楽の言葉が止まり怪訝な顔をする蓮が目を細めた次の瞬間、神楽の目付きと声が完全に【狂犬】に変わる。
「……なに、お前、誰」
既に開店しているが客が皆無な店内の空気が、冷たくなっていく。
神楽の声を聞きながら、蓮は先程消したばかりだが新しい煙草に火をつけ傍らに置いた携帯を開いた。
やっと出たと思えば知らない男の声が聞こえ、期待が砕け散ったと同時に神楽が相手に抱いたのは殺意以外のなんでもない。
誰だ、という言葉に返ってきた返事に心当たりがありすぎた神楽は少し素に戻って首を捻ったが、声の鈍りと話し方に聞き覚えがあって目を細める。
「……ちょっと、いくら負けたからってそれは卑怯なんじゃないっスか?センパイ」
へらりとした言い方をすれば、相手は笑いを返した。
『センパイに対してそないな言い方はあかんやろー?【狂犬】、』
「うっせぇ、睦月返せ」
『まあまあ、ええやないの』
「どこだ、場所教えろ」
『……おん?俺が教えると思っとんのかいな?わてで探せぇよ、自慢の鼻で』
相手のふざけた声で青筋を浮かべた神楽の雰囲気の変化に、携帯を弄っていた蓮がちらと見たもののまた視線を携帯に戻す。
「……、見つけたぞ」
「……」
数分起たずして、蓮が携帯の閉じた。
見つけた、ということはどういうことか。どうやって見つけたのか。
それを問うほど神楽は愚かではない。
蓮と目を合わせると、神楽は溜息ひとつ落ち着こうと目を閉じた。
しかしそれも相手側の音ですぐに無意味に変わる。
ドン、という小さいが何かがどこからか落ちたような鈍い音の後に聞こえた覚えのある声に、神楽は目を見開いて通話を強制終了させて蓮を見る。
「すぐ行きまス」
「……あ?」
素早く奥の部屋に向かった神楽の後ろ姿を、蓮は眉を潜めて見つめた。
ひとつ補足をするならば、蓮は神楽の態度に不快感を抱いたわけではなく、ただ神楽が電話で会話していた相手側で何かがあったのだという推測と、そしてそこにいるであろう従業員の状態に不快感をあらわにしただけである。
『───…いった!ちょ、いたい!』
相手側から聞こえた微かな睦月の意味ありげな声が、神楽の耳から脳に繰り返し響いていた。
睦月の声の理由が本人の単なる暇つぶしだと知る由もないのだが。
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