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 ───時間は遡り、午前7時。
 いつも通りに自営の喫茶店に入り雑務をしていた店の持ち主の知草蓮は、最近一緒に住みはじめた一人の従業員の今朝の行動を思い出していた。


 従業員の名は時任睦月。

 ぱっと見なんでもないような平凡で、けれどしっかり見つめれば洗礼されたパーツ、そして時々その平凡な顔からどうしたらそうなるのかと思う程に妖艶な笑みを見せる。
 よくある茶髪に色素の薄い目をした従業員である。


 面倒な事件だか事故だかにより血縁者を失った未成年の睦月を引き取ったのは蓮である。
 保護者というポジションであるが、そんなもの蓮にとってはなんの壁にもならない。


 バイトの面接という事で初めて会った日、今よりも感情がなく無表情が基本で、何にも興味のないつまらそうな目をしてたその従業員に、何故か言いようのない感覚を抱いて採用することした。

 採用から三ヶ月後に帰り際を捕まえて疑問を問いただした蓮に、渋々、しかしどこか縋るように従業員から吐き出された言葉。

 一部だけ傷だらけの腕を見て見ぬフリをしていたわけじゃない。
 時々目立つ目の下に濃く広がる隈も、青白い顔も、気づかなかったわけじゃない。
 だから聞いた。
 入ってきてすぐに聞いてもまともに話す事はないだろうと思い、三ヶ月は様子見をした。


 話を聞いた後、なんとなく言った言葉で、出会って初めてと言えるほどの彼の感情の篭った表情にぞわりと背中が粟立つのを感じて。

 気付いたら、頭を撫でてた。
 目を見開いた睦月の、男にしては大きめの目から涙が零れた時は流石に焦った蓮がその時同時に睦月に抱いた感情は、蓮本人にしか分からない。

 ただ、愛おしいと思うのに時間はかからなかった。



「おはよーございまーす」



カウンターに立って煙草を吸っていた蓮は鈴の音に気付かず、声をした方を見ればそこに居たのはいつだか蓮が拾った犬属性の金髪が立っていた。





*




 ───そこで思い出すのは、よくある茶髪に色素の薄い目。
 今はのんびりした雰囲気で素だが、初めて会った時は何にも興味のないような目をしていた。
 ふわふわふらふらどっか行ってしまいそうな、しかし自分に正直な、けれど自分を最低だと思っている人間。
 そして、平凡な顔からは想像もつかないようなたまに見せる妖艶な笑み。

 愛おしいと思う感情とか、独占欲とか。
 そんな感覚を抱いたのはいつからだっただろう。





 決められた出勤日にいつも通りの時間に自分の働く喫茶店に来た、金髪ポニーテールの見た目からも不良の喫茶店勤務歴二年の従業員、泉神楽は今不機嫌を隠す事なく晒してしる。



「……おせェな」
「…………」



 客席側のカウンターに寄り掛かり壁にかかる時計を見上げなら、喫茶店の持ち主であり店長の蓮が呟く。

 神楽がそれに返事をする事はなく、ただ黙って携帯をいじっては耳に当てるを繰り返している。


 時刻は10時。
 今日一緒に働くはずのもう一人の従業員の出勤時間は8時半である。
 一度も遅刻した事がないその従業員の携帯に神楽は引っ切りなしに電話をかけているが、一向に相手が出ることはない。



 


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あきゅろす。
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