04
だがしかし残念だ。
自由気ままで素っ気ない【黒猫】さんはね、『tutelary』というネームバリューを利用したりはしないんだよなぁ。
遊びに使うならまだしも、脅しに使うなんて似ても似つかないね。
その場の出来事に興味が削がれて、とりあえず情報は得たから撤収しようと踵を返した。
背後ではまた言い合いが再開して、【黒猫】だという話は半信半疑ながらもその発言に反感を抱いているようだ。
全員ではなくとも、彼らの殆どは【黒猫】に直接出会った事がないのかもしれない。
今まで被害を受けた奴等も、もしかしたら噂ではなく実際に会ったり見たりした事がないのかもしれない。
噂さえ知っていれば、その特徴さえ知っていれば、情報の数少ない人物を他人が演じるなんて簡単だ。
でも、あと少し面白く出来るはず。
ふとした考えが浮かんで足を止め、まだ数歩しか離れていない背後の言い合いが一瞬無くなった時に砂利のある場所に足を踏み入れた。
「───…!、おい誰だ」
「なんだてめぇ」
聞こえた声に口元の笑みを隠せなくて、フードを軽く引っ張り半身だけ振り返った。
「…なんか聞こえたから、何かなって思っただけだよ」
「うぜぇ、消えろ」
「瞬間移動は出来ないなぁ。のんびり歩いて帰るよ、もう興味無くなったから」
「はぁ?」
ごゆっくり、と言ってから本当にのんびり歩き出せば、背後でやいやい言ってるけど全無視した。
ただちょっかい掛けただけみたいに思えるけど、あの中の一人が疑惑を抱いたのを俺は気付いたよ。
そうそう、確か俺が溜まり場に入った時に擦れ違いで店から出たよね。
周りに金髪が多い中でひとり、派手な緑髪が印象的だった。
あまり時間も経ってないから俺でも覚えてる。
でも緑の彼が俺の真っ黒で分かりづらい服装を覚えてるかは定かじゃないけどね。
一応毎回同じではないし。
広がるのかその場で消えるのか、広がるとしたらどういう話になるのか、ちょっとだけ待ってみよう。
空き地を抜けて千鳥の家に着くまでの間に、この件をどう説明するか考えながら歩いた。
とりあえずまだちょっかい掛けた事は内緒にしておこう。
勘の良い誰かさん達なら新しい噂が出た内容によっては気付くんだろうけどね。
明日も明後日もおやすみだから連泊するのに手ぶらってヤバいな。
まあ、身軽になるように千鳥が色々用意してくれてんだけど。
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