03
若者数人の声は、何か言い合っているようにも聞こえて迷わず右折した。
もしかしたら噂の【黒猫】に出会えるチャンスかもしれないし。
まあそうじゃなくても、ただの喧嘩でもそれを見るのは好きだから良いか。
一人だし千世居ないけど何とかなるかなぁ、と楽観的に考えながら声が近くなってきた辺りで少しだけ息を潜めた。
大通りの裏側なのもあってか、周りは住宅よりビルが多い。
右側の道には空き地がある。
不良が溜まるのに使われてるのを何度か見たことあるし、たぶんそこら辺だろう。
「───って!」
「───かよ」
高めの声はよく聞こえるね。
一般通過凡人でパーカーのポケットに両手を突っ込んだまま、空き地を視界に入れる。
一見して五、六人が固まって、一ヶ所に向かってこっち側に背を向けていた。
結構白熱しているみたいで誰もこっちを見ない。
「───…勝手に突っ掛かってきて何なんだてめぇ!ぶっ殺すぞ!」
空き地を囲う低い壁に近付くと、ひとりが大きく声を張り上げた。
五、六人の向かい側には暗くてよく見えないけど誰かが居るらしい。
溜まっていた彼らに奇襲でもしたのか。
面白そう、と雑草だらけの空き地内に足を踏み入れた瞬間に聞こえた声に、思わず笑みを浮かべた。
「お前ら俺が【黒猫】だって知ってて言ってる?」
───まさか噂を知ったその日に出会すなんて、運良すぎない?
「は?、……【黒猫】?」
「そういや最近復帰したとか言ってた」
「潰し屋とかマジかよ」
「嘘くせぇ」
煙草の匂いが鼻について、フードを被り少しだけ距離を空けて彼らの後ろに立ち止まる。
みんな背が高いからイイ壁になるわ。
しかし向こう側に居るであろう【黒猫】の姿も見えない。
外灯もない奥の方だし、黒いから夜に紛れてる。
五、六人が口々に噂になっている話を出していて、やっぱ出回るの早いなと考えながら耳を傾けた。
「潰し屋とかは好きに考えれば?殺すとか言うけど、お前らが手を出せばチームが黙っちゃいないけどね」
ふーん。なるほど。
話し方は似せてるな。
似せてるってことは夜に出歩いていた時の俺とある程度の接触があったか、知ってる奴に聞いたか。
それこそチームの誰かか、敵対してるどっかのチームか。
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