09
───そこで何が起ころうと、俺は俺で、何も変わる事はないんだ。
鈍い後頭部の痛みに目が覚めたら、なんとびっくり。ここどこだ?
景色が横を向いてて、体が横たわってるのを知る。
顔を少し動かして見れば皮張りの黒いソファーの上で。見渡すと室内の殆どが黒い。
目の前の光沢のあるテーブルも、テレビもその下のラックも椅子もカーテンも、壁以外は真っ黒。
だから白い壁が異様な存在感で、窮屈な感じはしなかった。
壁まで黒かったらあまりの黒好きに褒めちぎりたくなるよね。
うん、まあ、まじでここどこさ。
黒ばっかり……は…っまさか、
「……魔界?」
なんてのは現実逃避だけど。
今日バイトなのに。
ふうむ。
今日、いつも通り間に合う時間で家を出て、足取り軽くなんてことはないけど普通に歩いて。
細道抜けたら店がーなんて思ったら、いきなりこう、がつんって後頭部に痛みがあって。
あ、殴られた、なんて呑気な事思ってたら意識が飛んで。
目覚めたら、これ。
なにそれ超目覚め悪。
頭痛で起きるとか、風邪引いた時くらいじゃね?
いや、いやいや風邪引いたって頭痛で目覚める事は滅多にないけども。
とりあえず身動きは微妙。
両手は後ろで縛られてるし、感触的に縄っぽい。しかしなぜか足は自由。
携帯はテーブルの上。そして無人。
え?普通目覚めたら犯人とご対面、とかじゃないの?
え?俺の偏見?
まあ面白おかしく遊んじゃうとかさ、こういう場合色々楽しんだりしちゃいたいけど。
脱出遊びだよ、脱出遊び。
やっほーい!とか言って思いっきり遊んだりしたいけど。
部屋の外に誰か居たらどうしよう、とかそんなもん気にしません。
だけどさ、うん。
何でこうなったのかっていう理由くらい犯人から聞きたいよね、個人的に。
なんて考えてたら、背後でガチャリとドアを開ける音がした。
「───なぁ、お前の情報、信用していいわけ?」
聞こえたのは、低い声。
「おん、当たり前やろ。俺を誰やと思うとるん?」
聞こえたのは、おちゃらけた関西鈍り。
「……ただの馬鹿」
「え、ちょ、今何言うたんこの子!」
「知るか」
ついで、のんびりしたツッコミ。
声はみっつ。
全員男ですかそうですか。まあ女がいたらびっくりするけどね。
仲良さそうな雰囲気と、声。
視界に映る景色が変わる。
「おや、起きてたんかい」
「……おはようございます」
とりあえず目覚めの挨拶したら、なんかびっくりした顔された。
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