06
───夢を見ていたような気がした。
懐かしいような、そんな、夢。
「おい、駄犬」
「…なんすかー」
「買い出しいけ」
「またっすか…、……」
「ンだよ?じっと見んな、キメェ」
「ちょ、なんすかそれ」
だけど、なんの夢を見ていたのか思い出せなくて。
「あ、ついでにタバコ」
「えぇ……わかりましたよ」
ため息ひとつ、腰エプロンを外して自転車の鍵を取り振りかえると。
白い煙を吐き出した蓮さんは、俺を見るなり目を細めた。
「お前、拾った時より態度が丸くなったな」
「…は、」
「さっさといけよ駄犬。好きなもん買ってイイぜ」
ふ、と、そこで思い出す、記憶。
五年前、身寄りのなかった俺に、新しい家と多少の生活費、それに、行けと言われた高校の学費を出してくれた蓮さんは、十六の誕生日、この店の従業員として雇ってくれた。
俺にとって、兄貴みたいな人になった蓮さんは、尊敬すらしているんだ。
「……まだガキ扱い」
「ガキだろーが。さっさと行け」
にやりと笑ったその顔が、いつかの出会ったあの時の顔と重なって見えて、一瞬、目を見開いた。
---END---
五年前、とある喫茶店。
そこは数年後に全国へその名を広めるほどに大規模なチームへと育つ、専用の溜まり場。
昼間である今では、夜のような騒がしさも人もおらず、店の持ち主と、黒髪で色素の薄い目をした少年だけがそこにいた。
「……犬はどうだ?」
「んー?」
カウンター席に座り、湯飲みを持つ少年の向かいに立つ店主でありチームの総長でもある天王焔紀は、煙草をふかしながら少年に問いかける。
少年は頬杖をつきつつも温かいお茶を一口飲み、息を吐き出して、
「まあまあ、かな」
ゆったりとした声。上がる口端。
そうか、と焔紀は呟き、ふと思い出したように口を開いた。
「そういや、知り合いがこの間路地裏で血まみれの犬を拾ったとか言ってたな、金髪で綺麗な顔してんだと。お前とタメくらいの」
「……ふうん」
特に興味のなさそうな声が返ってきて、焔紀が少年に目を向けると、少年がすこし、笑っているように見えた。
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