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 - カチャ、


 ───…。



 視界いっぱいに映る、オフホワイトの天井。
 微かな音と気配で目を覚まして、夢を見ていたんだと自覚した。
 懐かしい夢。の時はまだ、子犬みたいなものだった。



「……睦月…?」



 恐る恐る、というような声。けれど夢の中よりもはっきりとしてる。
 首を動かして右を見れば、ドアからちょっと体を出して様子を伺っている犬がいた。

 銀色の髪と、銀灰色の目。
 光りの反射でキラキラしてる。


 夢の中で子犬でも、今はもう立派な大型犬だ。



「…ごめんなさい」



 大型犬なのに小さく見えるのはなぜだ。
 何だか少し、あの頃と今が混合してる気がした。寝ぼけてんのかな。
 思わず、ふっと笑ってしまった。



「───おいで」
「わんっ」



 あの時と違うのは、おいで、と言って戸惑いなく寄ってくることか。
 伸びた髪が、なんだか夢の中の捨て犬君みたいで。



「……そろそろ髪切ろうか」
「?」



 目の前の犬にとって、自分の髪がどれだけ長かろうと興味はないんだろうけれど。
 今や肩の下辺りまで伸びた髪を梳けば、サラリと指の間を通り抜ける銀色が、冷たく見えるのに妙に暖かく感じた。


 擦り寄る犬は俺の真横でおすわりして、俺は体を起こす事もなくその場で千世の頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細める犬に、自分は相当な親バカなのかもしれないなと思いながらも。

 だって、うちの犬は可愛くてカッコイイが溢れてるんだから。



「千世、」



 これを言うのは二度目だね。



「俺が簡単に逝かないように、なるべく傍にいて」



 見開かれた銀灰色は、あの日を思い出しているのだろうか。なんて。

 髪を梳いていた手を両手で握られる。
 簡単に俺の両手を包み込むこの大きな手は、いつも暖かいんだ。



「───…オレは睦月が死んでもそばにいる」



 …あの日返されなかった、俺への言葉が返ってきたもんだから、成長したなぁ、なんてのんきな事思っちゃったよ。





───END

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