11
- カチャ、
───…。
視界いっぱいに映る、オフホワイトの天井。
微かな音と気配で目を覚まして、夢を見ていたんだと自覚した。
懐かしい夢。の時はまだ、子犬みたいなものだった。
「……睦月…?」
恐る恐る、というような声。けれど夢の中よりもはっきりとしてる。
首を動かして右を見れば、ドアからちょっと体を出して様子を伺っている犬がいた。
銀色の髪と、銀灰色の目。
光りの反射でキラキラしてる。
夢の中で子犬でも、今はもう立派な大型犬だ。
「…ごめんなさい」
大型犬なのに小さく見えるのはなぜだ。
何だか少し、あの頃と今が混合してる気がした。寝ぼけてんのかな。
思わず、ふっと笑ってしまった。
「───おいで」
「わんっ」
あの時と違うのは、おいで、と言って戸惑いなく寄ってくることか。
伸びた髪が、なんだか夢の中の捨て犬君みたいで。
「……そろそろ髪切ろうか」
「?」
目の前の犬にとって、自分の髪がどれだけ長かろうと興味はないんだろうけれど。
今や肩の下辺りまで伸びた髪を梳けば、サラリと指の間を通り抜ける銀色が、冷たく見えるのに妙に暖かく感じた。
擦り寄る犬は俺の真横でおすわりして、俺は体を起こす事もなくその場で千世の頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細める犬に、自分は相当な親バカなのかもしれないなと思いながらも。
だって、うちの犬は可愛くてカッコイイが溢れてるんだから。
「千世、」
これを言うのは二度目だね。
「俺が簡単に逝かないように、なるべく傍にいて」
見開かれた銀灰色は、あの日を思い出しているのだろうか。なんて。
髪を梳いていた手を両手で握られる。
簡単に俺の両手を包み込むこの大きな手は、いつも暖かいんだ。
「───…オレは睦月が死んでもそばにいる」
…あの日返されなかった、俺への言葉が返ってきたもんだから、成長したなぁ、なんてのんきな事思っちゃったよ。
───END
[*][#]
[戻る]
無料HPエムペ!