10
「……千鳥さん、」
捨て犬君の衝撃的な返事から数秒、自分で言っといてびっくりしたせいで黙っちゃって思わず隣に呼び掛ける。
千鳥さんは不機嫌そうでもなく、ただ銀色の捨て犬君を見てて。
「……ちゃんと世話しろよ」
独り言みたいな返事にこれまたびっくり。
ぎゅうぎゅう抱き着いてくる捨て犬君を横目に、深く頷いた。
「───ただいまー」
翡翠さんの診療所から帰宅したのは、夕方近くだった。
後ろにいるであろう捨て犬君の名前を考えながら、リビングに直行。ぺたぺたと足音が後ろから聞こえてきて、無意識に口元が緩んだ。
ソファーに捨て犬君を座らせて、目の前にしゃがみ込めば、じっと見つめてくる銀灰色の目。
「俺は、時任睦月。お前の飼い主だよ」
「……」
言えば、小さく頷く。
名前は決めた。
「お前の名前は、ちせ。千世だよ」
───千世。
俺より先に逝かないように、なるべく長く生きていけるように。
それに。
「……この先俺が簡単に逝かないように、なるべく傍にいて」
見開かれた目は、昨日よりも澄んでいるように見えて。
薄く開いた口から、少し掠れた声を聞いた。
「……むつ、き」
「なあに」
「むつき」
「なんだよー」
俺より背がデカイくせに、妙に可愛く見えるのはアレか?犬だからか?
一般常識で、人間を犬として飼うなんて、どこぞの金持ちみたいな印象。それに大抵犬扱いなんて性的欲求を満たす為に作るようなもん、なんて思い込みもある。
だけど俺は千世を正真正銘のペットとして扱うつもりだし、人間としての常識も教養も与えるし、愛情だって与えたい。
一家に一匹いるような犬だからこそ、それなりに癒してもらうし一応人間なんだし癒してあげたい。
千世を拾って飼うなんて、俺はただ、寂しかっただけなのかもしれない。
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